幕末期のお盆。『日本の礼儀と習慣のスケッチ』より、1867年出版

お盆(おぼん)とは、夏に行われる日本祖先の霊を祀る一連の行事。日本古来の祖霊信仰と仏教が融合した行事である。

かつては太陰暦7月15日を中心とした期間に行われた。現在では太陽暦8月15日を中心とした期間に行われることが多い。

由来

仏教用語の「盂蘭盆会」の省略形として「盆」(一般に「お盆」)と呼ばれる。盆とは文字どおり、本来は霊に対する供物を置く容器を意味するため、供物を供え祀られる精霊の呼称となり、盂蘭盆と混同されて習合したともいう説もある。現在でも精霊を「ボンサマ」と呼ぶ地域がある。

中華文化では道教を中心として旧暦の七月を「鬼月」とする風習がある。旧暦の七月朔日に地獄の蓋が開き、七月十五日の中元節には地獄の蓋が閉じるという考え方は道教の影響を受けていると考えられる。台湾香港華南を中心に現在でも中元節は先祖崇拝の行事として盛大に祝われている。

盆の明確な起源は分かっていない。1年に2度、初春初秋満月の日に祖先の霊が子孫のもとを訪れて交流する行事があった(1年が前半年と後半年の2年になっていた名残との説がある)が、初春のものが祖霊年神として神格を強調されて正月となり、初秋のものが盂蘭盆と習合して、仏教の行事として行なわれるようになったと言われている。日本では8世紀頃には、夏に祖先供養を行う風習が確立されたと考えられている。

1600年代(慶長年間)に、イエズス会が編纂した『日葡辞書』には、「bon(盆)」と「vrabon(盂蘭盆)」という項目がある。それらによると盆は、仏教徒(宣教師の立場からみれば「異教徒」)が、陰暦7月の14日・15日頃に、死者の為に行う祭りであると、説明されている。

地方や、仏教の宗派により行事の形態は異なる。

また、お盆時期の地蔵菩薩の法会は「地蔵盆」と呼ばれ、天道すなわち大日如来のお盆は「大日盆」と言われる。

お盆は成句(イディオム)として、年末年始と組み合わされて使われることも多い。「盆暮れ(ぼんくれ)」などと時季を指す言葉としてや、「盆と正月が一緒に来たよう」という"とても忙しいこと"または"喜ばしいことが重なること"のたとえ(慣用句)が代表的である。

ぼに

名称に「ぼに」がある。『蜻蛉日記』上巻応和二年に「十五、六日になりぬれば、ぼになどするほどになりにけり」とあり[1][2]徳島県指定無形民俗文化財津田盆踊り[3]は、津田の盆(ぼに)踊りとされ[4][5]阿波弁[6]岡山弁[7]備後弁[8]など各方言にある。また、『うつほ物語』11巻初秋(内侍督)に「御ぼにどもは例の数候ふや」とあるようにお盆の供養布施物のこともさす[1][2]

日付

伝統的には旧暦7月15日にあたる中元節の日に祝われた。日本では明治6年(1873年1月1日グレゴリオ暦新暦)採用以降、以下のいずれかにお盆を行うことが多い。

  1. 旧暦7月15日(旧盆) - 沖縄奄美地方など
  2. 新暦7月15日(もしくは前後の) - 函館[注 1]東京横浜静岡栃木市旧市街地、石川県の一部(金沢市旧市街地、白山市旧美川町地区かほく市旧高松町高松地区)など[10][11]
  3. 新暦8月15日月遅れの盆。2.の地方では旧盆とも) - ほぼ全国的
  4. その他(8月1日など)

現在では3.の月遅れ開催がほとんどである。しかし、沖縄県では現在でも1.の旧暦開催が主流であるため、お盆の日程は毎年変わり、時には9月にずれ込む[注 2]。8月1日開催の地域として、東京都多摩地区の一部(西東京市の旧田無市[12]小金井市[13]国分寺市府中市調布市など)や、岐阜県中津川市の旧付知町および旧加子母村[14]が知られる。これはかつて養蚕が盛んだった地域で、8月1日前後が養蚕の農閑期にあたっていた名残である。

なお、旧暦での盆を旧盆と言うが、一部の地方[15]を除いて通常、新暦での盆は新盆とは言わない。新盆(しんぼん、にいぼん、あらぼん)は別の意味となる。

全国的な風習

盆の概念は日本全国に広まっているため、その行事の内容や風習は地方それぞれに様々な様式がある。必ずしも定まったものでないが、全国に比較的広まっている風習として以下の様なものがある。別説で説明する#お盆休み帰省は、故郷を離れて暮らすことが一般化した昭和の後半から全国的に見られるようになったが、悼むべき故人に大戦で亡くなった親類縁者を共に加えておこなうことも少なくない。海外では新年などに行われることが一般的な花火大会ももともとは川施餓鬼の法会を起源として供養に繋がる(隅田川花火大会を参照)ことから地方ではこの帰省の時期に併せてよく開催されている。

乾かしたまこもでの迎え火(香取市
お盆のお供え(ナス、きゅうり、米を混ぜたもの)(香取市

釜蓋朔日

1日を釜蓋朔日(かまぶたついたち)と言い、地獄の釜の蓋が開く日であり、一般的に1日からお盆である。この日を境に墓参などして、ご先祖様等をお迎えし始める。地域によっては山や川から里へ通じる道の草刈りをする。これは故人の霊が山や川に居るという信仰に則り、その彼岸から家に帰る故人が通りやすいように行う。また、地域によっては言い伝えで「地獄の釜の開く時期は、池や川、海などへ無暗に近づいたり、入ったりしてはならない」というものもある。

七夕、棚幡

7日は七夕であり、そもそも七夕は「棚幡」(たなばた)とも書き、故人を迎える精霊棚とその棚に安置する(ばん)を拵える日であった。その行為を7日の夕方から勤めたために棚幡がいつしか七夕に転じたともいう。7日の夕刻から精霊棚や笹、幡などを安置する。 なお、お盆期間中、僧侶読経してもらい報恩することを棚経(たなぎょう)参りと言う。これは精霊棚で読むお経が転じて棚経というようになった。

迎え火

13日夕刻の野火を迎え火(むかえび)と呼ぶ。以後、精霊棚の故人へ色々なお供え物をする。 地方によっては、「留守参り」をするところもある。留守参りとは、故人がいない墓に行って掃除などをすることをいう。御招霊など大がかりな迎え火も行われる。

送り火

16日の野火を送り火(おくりび)と呼ぶ。京都の五山送り火が有名である。 15日に送り火を行うところも多い(奈良高円山大文字など)

また、川へ送る風習もあり灯籠流しが行われる。山や川へ送る点は、釜蓋朔日で記したとおり故人が居るとされるのが文化的に山や川でありそのようになる。

なお、故人を送る期間であるが、16日から24日までであり、お迎え同様に墓参などをして勤める。

仏教では広くとった場合、お盆は1日から24日を指す。これは、地獄の王とされる閻魔王の対あるいは化身とされるのが地蔵菩薩であり、24日の地蔵菩薩の縁日までがお盆なのである。「地蔵盆」も参照。

ちなみに、天道すなわち大日如来の「大日盆」は、その縁日に則って28日である。

盆踊り

足立区にあった盆踊り(2014年)

15日の盆の翌日、16日の晩に、寺社の境内などに老若男女が集まって踊るのを盆踊りという。これは地獄での受苦を免れた亡者たちが、喜んで踊る状態を模したといわれる。夏祭りのクライマックスである。旧暦7月15日は十五夜、翌16日は十六夜(いざよい)すなわち、どちらかの日に月は望(望月=満月)になる。したがって、晴れていれば16日の晩は月明かりで明るく、夜通し踊ることができた。

近年では、場所は「寺社の境内」とは限らなくなっており、また宗教性を帯びない行事として執り行われることも多い。典型的なのは、駅前広場などの人が多く集まれる広場に櫓(やぐら)を組み、露店などを招いて、地域の親睦などを主たる目的として行われるものである。盆の時期に帰郷するひとも多くいることから、それぞれの場所の出身者が久しぶりに顔をあわせる機会としても機能している。

なお、新しく行われるようになった盆踊りは、他の盆踊りとの競合を避けるために、時期を多少ずらして行われることも多い。これは、新興住宅地などでは、「盆の最中は帰郷しており、参加できない者が多数いる」などの事情も関係しているものと思われる。また、宗教性を避けて「盆踊り」とは呼ばないこともある。しかしそれらが「盆踊り」の系譜に連なるものであることは否定しがたい。 また、同様のものとして彼岸の時期に行なわれるものを「彼岸踊り」と呼称する地域(関東 - 近畿一の一部)も存在する。

初盆・新盆

新盆の家の入口に飾られた提灯(本来は白無地)(香取市

また、人が亡くなり49日法要が終わってから次に迎える最初のお盆を特に初盆(はつぼん、ういぼん)または新盆(しんぼん、にいぼん、あらぼん)と呼び[16]、特に厚く供養する風習がある。これも地方によって異なるが、初盆の家の人は門口や仏壇、お墓に白一色の盆提灯を立てたり、初盆の家の人にそういった提灯を贈ったりして特別の儀礼を行ない、また初盆以外の時には、模様のある盆提灯やお墓には白と赤の色が入った提灯を立てたりする。

地方の風習

精霊馬(馬と牛)
精霊船(盆船)(千葉県)(まこもで作った船にお盆中に供えた供物を載せ川に流す

以下は、全国にあまねく広がっているとはいえないがある程度の地域では一般的な風習である。常識とされる地方もある反面、そういった風習が全くなかったり、時代とともに変容していった地方もある。また、供えた供物を載せ川に流す風習のある地域において、近年は川を汚さないように流さなくなった地区もある。

地方や宗派によっては、お盆の期間中には、故人の霊魂がこの世とあの世を行き来するための乗り物として、「精霊馬」(しょうりょううま)と呼ばれるきゅうりナスで作る動物を用意することがある。4本の麻幹あるいはマッチ棒、折った割り箸などを足に見立てて差し込み、として仏壇まわりや精霊棚に供物とともに配する。きゅうりは足の速い馬に見立てられ、あの世から早く家に戻ってくるように、また、ナスは歩みの遅い牛に見立てられ、この世からあの世に帰るのが少しでも遅くなるように、また、供物を牛に乗せてあの世へ持ち帰ってもらうとの願いがそれぞれ込められている。

地方によっては「施餓鬼」(きこん または せがき)と呼ばれ、餓鬼道に陥った亡者を救ったり、餓鬼棚と呼ばれる棚を作って道ばたに倒れた人の霊を慰めたりするといった風習もこの頃に行われる。また、盆提灯と呼ばれる特別な提灯を仏壇の前に飾ったり、木組に和紙を貼り付けた灯篭を流す灯篭流しや、提灯を小船に乗せたようなものを川などに流す精霊流しを行う場合がある。特に長崎県長崎市の精霊船を曳き、市内を練り歩くのが有名。 特殊な例として岩手県盛岡市では供物を乗せた数m程度の小舟に火をつけて流す「舟っこ流し」が行われる。

お供え物も地方によって違いがあり、甲信越地方東海地方では仏前に安倍川餅北信地方長野県北部)ではおやきをお供えする風習がある。長野県や新潟県の一部地域では、送り火、迎え火の時に独特の歌を口ずさむ習慣があるなど、受け継がれた地方独自の風習が見受けられる。

長崎県では、盆の墓参りや精霊流しの際に手持ち花火爆竹を撃つ風習がある。今では廃れた中国・福建の風習である「清道」(元は盆と正月に行われていたが、現在では正月すなわち春節のみ)が元になっていると言われる。特に長崎市ではその風習により、シーズンになると花火問屋等花火を扱う商店ではその需要の多さから沢山の花火を求める客で賑わう。

沖縄県では、旧暦でお盆が行われる。13日をウンケー(お迎え。宮古ではンカイ[17]八重山ではシキルヒー、ンカイピー)、14日をナカビもしくはナカヌヒ、15日をウークイ(お送り。宮古ではウフーユー、八重山ではウクルピー)と称し、この間先祖の霊を歓待する[18]。また独特の風習や行事が伝えられる。代表的なものに、沖縄本島エイサー八重山列島アンガマがある。また、ウークイでは先祖の霊があの世にて金銭面で苦労しないようにするためにウチカビ(打紙)と呼ばれる冥銭を燃やす風習もある。八重山では旧盆のことをソーロンと呼ぶ[19]

宗派の風習

お盆の風習は仏教宗派によって異なる。浄土真宗では戒めがないので、盆棚をはじめとする盆飾りを用意する必要がない。盆菓子を仏壇や墓などに供え、僧侶に読経をしてもらう。

お盆休み

2018年 8月葉月
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
365日
各月 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
2018年 9月長月
1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
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30
365日
各月 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12

お盆は、旧暦・新暦・月遅れいずれも、日本ではいずれも過去に祝祭日国民の祝日になったことがない。社会的慣習として、新暦8月15日前後は平日であっても休業する会社や、休暇を取得する人が目立つ。学校の児童・生徒・学生の1~2カ月にわたる夏休みの重なる形で、勤労者も夏休み(お盆休み)となる場合が多い。祖先の霊を祭る宗教行事だけではなく、国民的な休暇や帰省・旅行シーズンとしての「お盆」という側面がある[20]。特に、仏教的生活習慣を意識していないキリスト教徒らにとっては、お盆(旧盆)は単なる夏休みになっている。

帰省して来た孫や甥姪らに対して、お年玉のような「お盆玉」を渡す高齢者も近年は見られる[21]

この時期は、毎年4月末から5月初旬にかけての大型連休(ゴールデンウイーク)や年末年始(お正月休み)とともに、高速道路や公共交通機関(鉄道高速バス、航空機)が大変混雑する為、帰省ラッシュと呼ばれる。ただし、大型連休や年末年始と異なり、カレンダー上は月曜日から金曜日に当たる日は通常の平日である。このため官公庁金融機関証券市場などは通常通りの業務を行っており、一般企業でも平日という建前から、出勤する部門・従業員も見られる。

帰省・Uターンラッシュを担う交通機関や、買い物・行楽客が訪れる物販・飲食店やホテル旅館にとっては、お盆はむしろ書き入れ時となる。こうした職場では7月から9月にかけて交代で夏休みを取り、混雑や料金が最ピークの旧盆時期を避けて旅行などをしたりすることも多い。

  • JRの特急回数券などの特別企画乗車券が利用不可能になる時期(繁忙期)は、4月27日 - 5月6日、8月11日 - 20日、12月28日 - 1月6日が設定されている。(ただし、訪日外国人旅行向けのジャパンレールパスと一部の特別企画乗車券は利用可能。)
  • お盆期間中の平日は、JR関東地方の大手私鉄・地下鉄などの公共交通機関では平日ダイヤで運行される。ただし、一部の私鉄地下鉄路線バスなどでは休日または土曜、あるいはバスでは旧盆(休校)期間専用のダイヤで運行される路線がある。また、平日ダイヤで運行される路線でも、朝の時間帯は通常の平日より列車編成を短くして運転する路線もある。土曜・休日ダイヤで運行される路線では、ラッシュ時臨時列車を増発する場合がある[22]。なお同一事業者でも、路線系統により適用するダイヤが異なる場合もある[注 3]

この他に、積雪寒冷地で土木大工型枠造園等の工事を請け負う業者では、冬は積雪・寒さで屋外作業ができないことが多いため(季節労働も参照)、晩秋までに工事を間に合わせなければならない。こうした事情から、お盆休みが1~2日だけの業者が多い。災害復旧などでお盆休みを返上する場合もある。

地方のお盆行事

北海道