カワリミズカビ
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カワリミズカビの生活環
分類
: 菌界 Fungi
: コウマクノウキン門 Blastocladiomycota
: コウマクノウキン綱 Blastocladiomycetes
: コウマクノウキン目 Blastocladiales
: コウマクノウキン科 Blastocladiaceae
: カワリミズカビ属
学名
Allomyces
E.J.Butler (1911)
和名
カワリミズカビ
亜属(あるいは節)
  • ユウアロミケス亜属 Euallomyces
  • シストゲネス亜属 Cystogenes
  • ブラキアロミケス亜属 Brachyallomyces

カワリミズカビAllomyces)は乾燥耐性の高い水中性の真菌であり、コウマクノウキン門カワリミズカビ属に属する生物の総称である。

特徴

カワリミズカビは主に水中で生活をしており、植物や動物遺体の栄養を吸収する生き物である。白っぽい菌糸を伸長させるミズカビ類によく似るが、成熟したカワリミズカビのコロニーでは黄土色の休眠胞子嚢が見えることで区別できる。特異的な生活環を持ち、同型の配偶体(n世代,単相)と胞子体(2n世代,複相)で世代交代を行う種が存在する。複相世代は菌界では非常に珍しくコウマクノウキン門でのみ知られる。なお、同じような世代交代は緑藻類や褐藻類の一部でも見られる(世代交代参照)。カワリミズカビは休眠胞子嚢の乾燥および高温耐性が高く、乾燥状態で30年間生存し、60度で数時間置いても生存する。[1]

世界で約9種類が知られている[2]

A. javanicusA. arbusuculus及びA. macrogynusの雑種であるとする研究がある。A. anomalusの一部についても雑種である可能性が指摘されている。[1]

日本では以下の3種類が報告されている[3]

  • A. arbusculus
  • A. neomoniliformis
  • A. javanicus

形態

菌糸体は明瞭な二叉分枝(にさぶんし)を行い、所々に隔壁が入る。この菌糸の特徴からミズカビ類と見分ける事が可能である。菌糸の先端には遊走子嚢、休眠胞子嚢、配偶子嚢を付ける。休眠胞子嚢は黄土色で見えやすく、他の菌類との簡易な区別に用いる事ができる。菌糸は限定成長で、無限に伸びる事はない。基質の中へ仮根状の菌糸が伸びて栄養吸収を行う。なお、コウマクノウキン目においては菌糸が枝分かれするのはこの属のみである[1]

胞子体(2n世代の菌体)

胞子体は2n世代(複相世代)の菌糸体であり、菌糸の先端に仮軸上に遊走子嚢と休眠胞子嚢を作る。遊走子嚢は透明で菌糸よりやや膨らんだ形をしており、2nの遊走子が形成されて放出される。休眠胞子嚢は黄土色または焦茶っぽい色をしており、いくつかの種では発芽時に減数分裂が行われるステージである。成熟した休眠胞子嚢は乾燥条件下におかれた後に水分を与えられる事で発芽し、配偶子(nの遊走子)または2nの遊走子を放出する。[1]

配偶体(n世代の菌体)

配偶体はn世代(単相世代)の菌糸体であり、カワリミズカビ属の内、ユウアロミケス亜属のみが生活環の一部でこの形になる。配偶体は胞子体とほぼ同様の菌糸体であり、菌糸の先端には大きく無色の雌性配偶子嚢、小さく橙色になる雄性配偶子嚢を付ける。雌性配偶子嚢からは雌性配偶子、雄性配偶子嚢からは雄性配偶子が放出される。雌性配偶子は雄性配偶子より2倍程大きい。雄性配偶子嚢の色はカロチンによってもたらされる。二つの配偶子嚢は二つ一組に形成され、大きさの比、配置は種によって異なる。A. macrogynusは雄性配偶子嚢の遊走子放出が15 - 20分ほど遅れる雌性先熟であり、他個体由来の配偶子と接合する可能性を高めている。 [1]

分類

カワリミズカビ属(Allomyces)は後方一本鞭毛の遊走子を持つ鞭毛菌類であり、Butlerがインドの河川において分離したAllomyces arbusculusが最初の学術的記載である[4]。従来は、ボウフラキンCoelomomyces、フィソデルマ属Physoderma、コウマクノウキン属Blastocladia、ブラストクラディエラ属Blastocladiella等と共にツボカビ門に分類されていたが、近年の分子系統解析と遊走子の微細構造の観察により、これらの生物はコウマクノウキン門Blastocladiomycota)として新たに提唱された[5]

生活環による3亜属の分類

生活環の三つの型によって属以下の分類が行われており[6]、亜属あるいは節として扱う。配偶体を伴う世代交代がある種をユウアロミケス亜属に含める。生活環の内に配偶体を持たない種はシストゲネス亜属とブラキアロミケス亜属に分類される。ただしこれは必ずしも系統を反映しない[7]

ユウアロミケス亜属

ユウアロミケス亜属に含められるのは以下の3種である。ただしA. javanicusA. macrogynusA. arbusculusの雑種であるとする研究例がある。

  • A. arbusuculus
  • A. macrogynus
  • A. javanicus

ユウアロミセス亜属のものは、n世代の配偶体と2n世代の胞子体、二通りの菌糸体を持つ。胞子体において成熟した休眠胞子嚢は、乾燥条件下におかれた後に水分を与えられる事で発芽し、nの遊走子(配偶子)を放出する。配偶子は基質に接着する事で発芽し、配偶体を形成する。配偶体は雌雄の配偶子嚢を形成し、雌性配偶子と雄性配偶子が接合する事で2nの遊走子が作られる。2nの遊走子は基質に接着する事で発芽し、胞子体を形成する。[1]

また胞子体では遊走子嚢も形成され、そこから放出された遊走子は再度胞子体を形成する。

シストゲネス亜属

シストゲネス亜属に分類されるのは以下の2種が代表的である。

  • A. moniliformis
  • A. neomoniliformis

シストゲネス亜属は生活環の内に配偶体を持たず、2n世代の胞子体のみを持つ。胞子体の形状はユウアロミケス亜属と同じであり、遊走子嚢と休眠胞子嚢を形成する。休眠胞子嚢では減数分裂が行われ、30個ものアメーバ状の細胞が放出される。アメーバ状細胞は2核性であり、後端に2本鞭毛をもつ事がある。それらは短時間で被嚢し被膜胞子となり、数時間後には四個の遊走子が出てくる。これらの遊走子は同型配偶子としてふるまい、接合すると二鞭毛をもつ接合子となり、基質に付着すると発芽して新たな胞子体を形成する。シストゲネス亜属ではn世代は被膜胞子と同型配偶子である。[1]

ブラキアロミケス亜属

ブラキアロミケス亜属に分類されるのは以下の一種である。

  • A. anomalus

ブラキアロミケス亜属は生活環の内に配偶体を持たず、2n世代の胞子体のみを持つ。胞子体の形状はユウアロミケス亜属と同じであり、遊走子嚢と休眠胞子嚢を形成する。休眠胞子嚢中から生じた遊走子が基質に付着すると胞子体を形成する。[1]

ブラキアロミケス亜属は不完全なユウアロミケス亜属とされる。細胞学的な研究によると、休眠胞子嚢中で減数分裂に失敗し遊走子が2nになっているものと、休眠胞子嚢で減数分裂が行われたのちに放出されたnの遊走子がアポミクシスを起こし、2nの胞子体を再形成するというものがある。A. anomalusの休眠胞子嚢を薄いリン酸水素二カリウム水溶液中で発芽させると、わずかな割合でA. arbusuculus及びA. macrogynus様の配偶体に発達する遊走子が作られたとする研究例があり、ユウアロミケス亜属同士の雑種が、染色体対合の失敗によって減数分裂を行えなくなったものだという仮説がある。[1]

世代交代

ユウアロミケス亜属は真菌では非常に珍しい、核相の交代を伴う世代交代を行う生物である。その他には、同じコウマクノウキン門ボウフラキン属が同様の世代交代を行うことが知られている。出芽酵母には、通常の単相の細胞だけでなく、複相の細胞が出芽する例も知られているが、形態的な分化は全く見られない。同様の世代交代は陸上植物では一般的であり、藻類にも多くの例が見られる。

生理

配偶子の誘引物質

雌性配偶子嚢及び雌性配偶子は、シレニンというフェロモンによって雄性配偶子を誘引することがわかっている。雌性配偶子は配偶子嚢から放出後もあまりはなれずゆっくりと遊泳することで、シレニンの濃度勾配を作り、接合の機会の増大をもたらしていると考えられている。他方、雄性配偶子もパリシンというフェロモンを分泌する。

光受容体

カワリミズカビは光受容に関連する物質、ロドプシンを産生する遺伝子を持つことで知られる。光受容は遊走子や菌体が水面付近を目指すために必要であると考えられる。

分離と培養

水中性の生物ではあるが、すぐに干上がるような環境から良く分離される。例として水田や水田の側溝、池の周囲の乾いた土、水たまりが乾燥した後の土、緩やかな川岸などから分離できる。乾いたグラウンドから分離されたこともある。通常の水圏ではミズカビ類が優勢であるが、乾燥する事がある水辺では、休眠胞子嚢の乾燥耐性によってよく生息しているようである。

分離には釣り餌法を持ちいるのが一般的である。アイスカップやシャーレ等に適量の土壌試料を入れ、水道水や池の水(できれば滅菌する)を投入後、しばらく置いてから胡麻、麻の実、イカ等を基質として投入する。1日 - 数日後には特徴的な二叉分枝を伴う太い菌糸を基質から成長させる。

脚注

  1. ^ a b c d e f g h i ジョン・ウェブスター 1985.
  2. ^ Allomyces, http://www.mycobank.org/BioloMICS.aspx?TableKey=14682616000000067&Rec=31764&Fields=All 2016年10月6日閲覧。  - Mycobank
  3. ^ Indoh (1940), “Studies on Japanese aquatic fungi. II. The Blastocladiaceae”, Science Reports of the Tokyo Bunrika Daigaku 4: 237–384 
  4. ^ Butler, E.J. (1911), “On Allomyces, a new aquatic fungus.”, Annals of Botany 25 (4): 1023-1036 
  5. ^ James et al. (2006年). “A molecular phylogeny of the flagellated fungi (Chytridiomycota) and description of a new phylum (Blastocladiomycota)” (pdf). Mycologia 98 (6): 860-871. http://www.mycologia.org/content/98/6/860.full.pdf. 
  6. ^ Emerson (1941年). “An experimental study of the life cycles and taxonomy of Allomyces”. Lloydia 4: 77-144. 
  7. ^ Porter et al. (2011年). “Molecular phylogeny of the Blastocladiomycota (Fungi) based on nuclear ribosomal DNA”. Fungal Biol. 115 (4-5): 381-392. doi:10.1016/j.funbio.2011.02.004. 

参考文献

  • ジョン・ウェブスター; 椿啓介、三浦宏一郎、山本昌木訳 『ウェブスター菌類概論』 講談社、1985年 

関連文献

  • Sparrow FK (1960), Aquatic Phycomycetes (2nd Revised ed.), pp. 669-678 
  • 小林義雄、今野和子 『日本産水棲菌類図説』、1986年 
  • Alexopoulos CJ, Mims CW, Blackwell M (1996), INTRODUCTORY MYCOLOGY (4th ed.), John Wiley & Sons,Inc., ISBN 0471522295 
  • James TY, Porter TM, Martin W (2014), “The Mycota VII Part A Blastcladiomycota”, in McLaughlin DJ, Spatafora JW, Systematics and Evolution (2nd ed.), Springer Berlin Heidelberg, pp. 177-207, doi:10.1007/978-3-642-55318-9_7, ISBN 978-3-642-55317-2