バラ
Mrs. Herbert Stevens May 2008.jpg
ミセス・ハーバート・スティーブンス
ハイブリッド・ティー 1910年
分類
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 eudicots
階級なし : バラ類 rosids
階級なし : マメ類 fabids
: バラ目 Rosales
: バラ科 Rosaceae
: バラ属 Rosa

バラ薔薇)は、バラ科バラ属の総称である[1][2][3]。あるいは、そのうち特に園芸種(園芸バラ・栽培バラ)を総称する[1]。ここでは、後者の園芸バラ・栽培バラを扱うこととする。

バラ属の成形は、灌木、低木、または木本性のつる植物で、や茎にを持つものが多い。葉は1回奇数羽状複葉。花は5枚の花びらと多数の雄蘂を持つ(ただし、園芸種では大部分が八重咲きである)。北半球温帯域に広く自生しているが、チベット周辺、中国雲南省からミャンマーにかけてが主産地でここから中近東ヨーロッパへ、また極東から北アメリカへと伝播した。南半球にはバラは自生しない。

名称

「ばら」の名は和語で、「いばら」の転訛したもの[注 1]。漢語「薔薇」の字をあてるのが通常だが、この語はまた音読みで「そうび」「しょうび」とも読む。漢語には「玫瑰」(まいかい)や「月季」(げっき)の異称もある(なお、「玫瑰」は中国語においてはハマナスを指す)。

欧州ではラテン語の rosa に由来する名で呼ぶ言語が多く、また同じ語が別義として「薔薇色」として「ピンク色」の意味をもつことが多い。

6月誕生花である。季語は夏(「冬薔薇」「ふゆそうび」となると冬の季語になる)。 花言葉は「愛情」であるが、色、状態、本数、組合せによって変化する。

分類

バラの分類方法は定まったものがなく、以下に示すのは一例である。 また、バラにはしばしば略式記号が用いられるため、それもともに記述する。

系統別の分類

原種

原産地別の原種
ロサ・カニナ
ロサ・グラウカ

主なもののみ。

  • ヨーロッパの原種
    • ロサ・アルバ(Rosa alba
    • ロサ・カニナ(Rosa canina
    • ロサ・ガリカ(Rosa gallica
    • ロサ・キナモメナ(Rosa cinnamomea
    • ロサ・グラウカ(Rosa glauca
    • ロサ・ケンティフォリア(Rosa centifolia
    • ロサ・スピノシッシマ(Rosa spinosissma
    • ロサ・ウィクライアナ(Rosa wichuraiana
  • 中近東の原種
    • ロサ・フェティダRosa foetida
    • ロサ・フェティダ・ビコロール(Rosa foetida bicolor
    • ロサ・フェティダ・ペルシアナ(Rosa foetida persiana
    • ロサ・フェッチェンコアナ(Rosa fedtschenkoana
    • ロサ・ダマスケナ(Rosa damascena
  • 中国の原種
    • コウシンバラRosa chinensis
      • グリーンローズ var. Viridiflora - 花弁・雄シベ・雌シベが葉に変化した品種、花期は長いが種子と花粉が出来ない。
    • ナニワイバラ(Rosa laevigata
    • ロサ・ギガンティアRosa gigantea
    • ロサ・プリムラ(Rosa primula
    • ロサ・マリガニー(Rosa mulliganii
    • ロサ・セリカナ・プテラカンサ(Rosa sericana pteracantha
    • ロサ・ユゴニス(Rosa hugonis
    • ロサ・バンクシアエ・ルテア(Rosa banksiae lutea)(モッコウバラ
    • ロサ・キネンシスRosa chinensis
  • 日本の原種
    テリハノイバラ(照葉野茨)
  • 北米の原種
ロサ・カリフォルニカ
  • ロサ・キンナモメア(Rosa cinnamomea
  • ロサ・ニティダ(Rosa nitida
  • ロサ・カリフォルニカ(Rosa californica
  • ロサ・ヴィルギニアナ(Rosa virginiana
  • ロサ・パルストリス(Rosa palustris
品種改良に使用された原種
  • ロサ・ムルティフローラ(ノイバラ)(Rosa mulitiflora
  • ロサ・ウィクライアナ (テリハノイバラ)(Rosa wichuraiana
  • コウシンバラRosa chinensis
  • ロサ・ガリカ(Rosa gallica
  • ロサ・アルバ(Rosa alba
  • ロサ・ダマスケナ(Rosa damascena
  • ロサ・ケンティフォリア(Rosa centifola
  • ロサ・フェティダRosa foetida
  • ロサ・モスカータ(Rosa moschata
  • スブニール・ドゥ・ラ・マルメゾン(O)
    ガリカ
    イングリット・バーグマン(HT)、剣弁高芯咲き。
    グラハム・トーマス(ER)、オールドローズの花容に黄色の花色は画期的であった。
    オールドローズ(O)

    後述の「ラ・フランス」より前の品種をいう。野生の原種であるワイルドローズを含めるが、含めない場合もある。主な系列としてガリカ、ダマスク、アルバ、ケンティフォリア(センティフォリア)などがある。優雅な花形に豊かな香りが特徴である。また一季咲きのものが多い。

    • アルバ(Alba)(A)
    • ケンティフォリア(Centifolia)(C)
    • ダマスク(Damask)(D) - 香水などに利用される、香りの良い系統。
    • ガリカ(Gallica)(G) - 赤や桃色の品種。背丈が低く、香りのあるものが多い。
    • ブルボン(Bourbon)(B)
    • ノワゼット(Noisette)(N) - つる性の系統。
    • ティ(Tea)(T)
    • チャイナ(China)(Ch) - 背丈の低い系統。
    • モス(Moss)(M) - ケンティフォリアとダマスクの派生種、茎や蕾に苔の様なものがつく。
    • ポートランド(Portland)(P)
    • ポリアンサ(Polyantha)(Pol) - 小型で連続開花性に優れ、房状に花をつける系統。フロリバンダの元となった品種。
    • ランブラー(Rambler)(R) - テリハノイバラをもとに改良され、長くしなやかな枝を持つ系統。
    • エグラテリア・ローズ(Eglanteria Roses)
    • ハイブリッド・パーペチュアル(H.Perpetual)
    • ハイブリッド・フェティダ (H.foetida) (HFt)
    • ハイブリッド・マクランタ(H.Macrantha)
    • ハイブリッド・ムスク(H.Musk)(HMsk)
    • ハイブリッド・モエシー(H.Moyesii)(HMoy)
    • ハイブリッド・センパビエレン(H.Semperviren)
    • ハイブリッド・ムルティフローラ(H.Multiflora)(HMult)
    • ハイブリッド・ルゴサ(H.Rugosa)(HRg)
    モダンローズ

    後述の「ラ・フランス」以降に作出されたものを指す。

    • ハイブリッド・ティー(Hybrid Tea)(HT) - 木立性で四季咲きの品種。
    • フロリバンダ(Floribunda)(FもしくはFL) - 木立性で四季咲き、房状に花をつける。
    • ミニチュア(Miniature)(Min) - 小型の品種。
    • つるハイブリッド・ティー(Climbing Hybrid Tea)(CLHT) - ハイブリッド・ティーの枝変わり。
    • つるフロリバンダ(Climbing Floribunda)(CLFもしくはCLFL) - フロリバンダの枝変わり。
    • つるミニチュア(Climbing Miniature)(CLMin) - ミニチュアの枝変わり。
    • つる(Climbing)(CL)
    • シュラブ(Shrub)(SもしくはSh)
    • イングリッシュ・ローズ(English Roses) (ER) - 1969年にデビッド・オースチンが発表した、オールドローズとモダンローズの特徴を合わせ持つシュラブ(半つる性)のモダンローズである。なお新たな系統が出来た訳ではない。国際登録ではシュラブローズで登録してある。
    • 修景用(Landscape Roses)(LS)
    • ハイブリッド・コルデシー(H.Kordesii)

    など

    花弁の数による分類

    • 一重咲き
    • 半八重咲き
      • 平咲き
      • カップ咲き
      • ロゼット咲き
      • クオーター咲き
      • ポンポン咲き
      • 剣弁高芯咲き
      • 半剣弁高芯咲き
      • 丸弁抱え咲き

      花期による分類

      • 一季咲き
      • 返り咲き
      • 繰り返し咲き
      • 四季咲き

      樹形による分類

      • ブッシュ(木立性)
      • シュラブ(半つる性)
      • クライミング(つる性)

      その他、ショートクライマー(小型のつる性)、ロングクライマー(大型のつる性)、ランブラー(つる性の枝垂れるもの)グラウンドカバー(匍匐性)など細かく分類される場合がある。

用途

現在では鑑賞用として栽培されることが圧倒的に多いが、他にもダマスクローズDamask rose)の花弁から精油を抽出した「ローズオイルRose oil)」は、香水の原料やアロマセラピーに用いられる。 花弁を蒸留して得られる液体「ローズウォーターrose water)」は、中東インドなどでデザートの香りづけに用いられる[4]。 また、乾燥した花弁はガラムマサラに調合したり、ペルシャ料理では薬味として用いる。 日本では農薬のかかっていない花弁をエディブル・フラワーとして生食したり、花びらや実をジャムや砂糖漬けに加工したり、乾燥させてハーブティーとして飲用することもある。

栽培の歴史

西洋

バラが人類の歴史に登場するのは古代バビロニアの『ギルガメシュ叙事詩』である。この詩の中には、バラの棘について触れた箇所がある[5]

紀元前1500年頃の古代オリエントの地では約4種の野生バラがあり、ここから交雑によっていくつかの品種が誕生したといわれている[6]。バラはギリシャ時代を経て古代ローマへと伝播しヨーロッパの文化に定着することとなる[6]

古代ギリシアローマでは、バラは愛の女神アプロディテもしくはウェヌス(ヴィーナス)と関係づけられた[5]。また香りを愛好され、香油も作られた。プトレマイオス朝エジプトの女王クレオパトラはバラを愛好し[5]ユリウス・カエサルを歓待したときもふんだんにバラの花や香油を使用したと伝えられている。

ローマにおいてもバラの香油は愛好され、北アフリカや中近東の属州で盛んにバラの栽培が行われた。クレオパトラと同様にバラを愛した人物に、暴君として知られる第5代ローマ皇帝ネロがいる[5]。彼がお気に入りの貴族たちを招いて開いた宴会では、庭園の池にバラが浮かべられ、バラ水が噴き出す噴水があり、部屋はもちろんバラで飾られ、皇帝が合図をすると天井からバラが降り注ぎ、料理にももちろんバラの花が使われていたと伝えられる。

中世ヨーロッパではバラの美しさや芳香が「人々を惑わすもの」として教会によってタブーとされ、修道院薬草として栽培されるにとどまった[5]

イスラム世界では、白バラはムハンマドを表し、赤バラが唯一神アッラーを表すとされた。また、香油などが生産され愛好された。『千夜一夜物語』などやウマル・ハイヤームの『ルバイヤート』にもバラについての記述がある。

十字軍以降、中近東のバラがヨーロッパに紹介され、ルネサンスのころには再び人々の愛好の対象になった。イタリアボッティチェッリの傑作「ヴィーナスの誕生」においてもバラが描かれ、美の象徴とされているほか、ダンテの『神曲』天国篇にも天上に聖人や天使の集う純白の「天上の薔薇」として登場する。またカトリック教会聖母マリアの雅称として「奇しきばらの花」(Rosa Mystica)と呼ぶようになる。

バラの母ジョゼフィーヌ皇后

ナポレオン・ボナパルトの皇后ジョゼフィーヌはバラを愛好し、夫が戦争をしている間も、敵国とバラに関する情報交換や原種の蒐集をしていた。ヨーロッパのみならず日本や中国など、世界中からバラを取り寄せマルメゾン城に植栽させる一方、ルドゥーテに「バラ図譜」を描かせた[5]

このころにはアンドレ・デュポンによる人為交配(人工授粉)による育種の技術が確立された[5]。ナポレオン失脚後、またジョゼフィーヌ没後も彼女の造営したバラ園では原種の蒐集、品種改良が行われ、19世紀半ばにはバラの品種数は3,000を超え、これが観賞植物としての現在のバラの基礎となった。

モダンローズの誕生

ハイブリッド・ティー(HT)系の誕生

1867年フランスのギョーがハイブリッド・パーペチュアル系の「マダム・ビクトル・ベルディエ」を母にティー系の「マダム・ブラビー」を交配し「ラ・フランス」を作出し、これがモダンローズの第1号となり、品種改良が一層進むことになった。「ラ・フランス」が冬を除けば一年中花を咲かせる性質は「四季咲き性」といわれ、画期的なものであった。英国のベネットはこれに追随し、ティー系「デボニエンシス」とハイブリッド・パーペチュアル系「ビクトール・ベルディエ」を交配し、「レディ・マリー・フィッツウィリアム」を1882年に作り出し、これを新しいバラの系統として「ハイブリッド・ティー」系と命名した。ベネットの新品種は整った花容から、交配の親として広く利用されていった。

黄色いバラの誕生

当時のハイブリッド・ティー系には純粋な黄色の花はなかった。そこで、黄色のハイブリッド・ティー系の品種を作り出すことが課題とされた。1900年にフランスのジョセフ・ペルネ=デュシェ (Joseph Pernet-Ducher) が「アントワーヌ・デュシェ」の実生に原種の「ロサ・フェティダ(オーストリアン・イエロー)」をかけあわせて「ソレイユ・ドール」を作出、黄バラ第1号となった。しかし「ソレイユ・ドール」は「四季咲き性」がないので、一層の改良が加えられ、1907年には四季咲き性の「リヨン・ローズ」、さらに1920年には完全な黄色のバラ「スブニール・ド・クロージュ」を完成させた。ドイツのコルデスは「スブニール・ド・クロージュ」の子の「ジュリアン・ポタン」から1933年に「ゲハイムラート・ドイスゲルヒ(ゴールデン・ラピチュア)」を作出した。これが今の黄色のバラの親である。

欧米での品種改良の進展

コルデスは黄色のみならず、赤バラの改良にも尽力した。1935年に「クリムゾン・グローリー」を作り出し、これが後世の赤バラの品種改良に広く利用されることになる。英国では1912年に「オフェリア」を発表、花容、芳香に優れるだけでなく実をつけ易いことから、多くの品種の親になる。このようなヨーロッパでの品種改良は、第二次世界大戦で中断する。品種改良の中心は、戦火に見舞われないアメリカ合衆国に移る。1940年にラマーツが「クリムゾン・グローリー」から「シャーロット・アームストロング」を作り出し、フランスのメイアンの「マダム・アントワーヌ・メイアン」がアメリカで「ピース」と名づけられ、1945年に売り出された。「ピース」は大きな花をつけることから、「巨大輪」とよばれ品種改良に利用されるとともに、戦後のバラの流行を作り出すことになる。

フロリバンダ系(FL)の誕生

デンマークのポールセン兄弟が従来ある「ドワーフ・ポリアンサ系」の花を大きくし、北ヨーロッパの寒さに耐えられる品種を作出しようとしていた。1911年にポリアンサ系の「マダム・ノババード・レババースル」とランブラー系の「ドロシー・パーキンス」をかけ合わせ「エレン・ポールセン」を作り出し、続く1924年にはポリアンサ系の「オルレアンローズ」とハイブリッド・ティー系「レッドスター」の交配で「エルゼポールセン」「キルステンポールセン」などを出し、「ハイブリッド・ポリアンサ系」と命名された。これを受けてアメリカのブーナーなどが改良を続け、この系統は「フロリバンダ系」と命名される。さらにドイツのコルデスが1940年に「ピノキオ」を発表した。ブーナーがこれに追随して「レッド・ピノキオ」「ラベンダー・ピノキオ」を発表し、これがフロリバンダ系の完成と言われる。

その後、フロリバンダ系の改良は色の多様性を求めることに重点がおかれ、1944年にはドイツのタンタウが「フロラドラ」、1949年ブーナーが「マスケラード」を、1951年にコルデスが「インデペンデンス」を作出した。新しい系統であるが、「フロリバンダ系」は切花ではスプレーバラとして利用されるため、多くの品種が作り出されることになり、またハイブリッド・ティーとの交配も試みられ、ますます多様性を強めている。

「奇跡」のブルー・ローズへの挑戦

「青いバラ」は、オールド・ローズの「カーディナル・ド・リシュリュー」などが知られていた。しかし、純粋な青さを湛えたバラを作り出すことは、青いチューリップと同様に世界中の育種家の夢であり、各国で品種改良競争が行われた。1957年、アメリカのフィッシャーが「スターリング・シルバー」を出し、「青バラ」の決定版といわれた。しかし、競争はやまず、1957年にはタンタウが一層青い「ブルームーン」を発表した。それにコルデスが1964年に「ケルナーカーニバル」を出し、1974年にフランスのメイアンは「シャルル・ド・ゴール」を発表と、熾烈な品種改良競争を展開した。日本でも青いバラに対する挑戦は盛んで、今日までに数多くの品種が生み出され、世界でも注目を浴びている。

2008年現在、一般的な交配による品種改良で最も青に近いとされる品種は、岐阜県河本バラ園が2002年に発表した「ブルーヘブン」、アマチュア育成家である小林森治が1992年に発表した「青龍」や2006年に発表した「ターンブルー」等が挙げられる。

従来、青い色素を持つ原種バラは発見されていなかったため、従来の原種を元にした交配育種法では青バラ作出は不可能とされてきた。そのため、現在の園芸品種にも青色といえる品種は存在しない。また「青バラ」と呼ばれる品種は、主に赤バラから赤い色素を抜くという手法で、紫や藤色に近づけようとしたものである。その後、サントリーの福井祐子らの研究により、青い色素を持たないとされてきたバラから、シアニジン誘導体のバラ独自の青い色素が発見された[7](「青龍」を始めとするいくつかの青バラより)。これはバラ独自のもののため、「ロザシアニン」(Rosacyanin)と命名された。

しかし、この色素を持つ「青龍」は花粉をほとんど出さないために、交配親としては不向きとされており、遺伝子操作に頼らない青バラへの道は依然険しく長い道のりのままではある。だが、「ロザシアニン」の発見は、純粋な青バラ作出を目指す育種家にとって一つの希望を示したといえる。

中国

中国の庭園で伝統的に栽培されたバラは8種である[6]。18世紀、中国を旅したヨーロッパ人が中国庭園で見たバラは、灌木性で四季咲き、多くは重弁の品種群であった[6]。特に華中地域ではチャイネンシスバラなど優れたバラ類が庭園に栽培されておりヨーロッパにも持ち運ばれた[8]