コップに注がれたビール
日本の缶ビール
ドイツのビール
ビール[1]
100 gあたりの栄養価
エネルギー 181 kJ (43 kcal)
3.55 g
糖類 0 g
食物繊維 0 g
0 g
飽和脂肪酸 0 g
一価不飽和 0 g
多価不飽和 0 g
0.46 g
トリプトファン 0 g
トレオニン 0 g
イソロイシン 0 g
ロイシン 0 g
リシン 0 g
メチオニン 0 g
シスチン 0 g
フェニルアラニン 0 g
チロシン 0 g
バリン 0 g
アルギニン 0 g
ヒスチジン 0 g
アラニン 0.012 g
アスパラギン酸 0.016 g
グルタミン酸 0.047 g
グリシン 0.013 g
プロリン 0.035 g
セリン 0 g
ビタミン
ビタミンA相当量
(0%)
0 μg
(0%)
0 μg
0 μg
チアミン (B1)
(0%)
0.005 mg
リボフラビン (B2)
(2%)
0.025 mg
ナイアシン (B3)
(3%)
0.513 mg
パントテン酸 (B5)
(1%)
0.041 mg
ビタミンB6
(4%)
0.046 mg
葉酸 (B9)
(2%)
6 μg
ビタミンB12
(1%)
0.02 μg
コリン
(2%)
10.1 mg
ビタミンC
(0%)
0 mg
ビタミンD
(0%)
0 IU
ビタミンE
(0%)
0 mg
ビタミンK
(0%)
0 μg
ミネラル
ナトリウム
(0%)
4 mg
カリウム
(1%)
27 mg
カルシウム
(0%)
4 mg
マグネシウム
(2%)
6 mg
リン
(2%)
14 mg
鉄分
(0%)
0.02 mg
亜鉛
(0%)
0.01 mg
マンガン
(0%)
0.008 mg
セレン
(1%)
0.6 μg
他の成分
水分 91.96 g
アルコール (エタノール)
3.9 g
%はアメリカ合衆国における
成人栄養摂取目標 (RDIの割合。
出典: USDA栄養データベース(英語)

ビール: bier)は、アルコール飲料の一種。様々な作り方があるが、主に大麦を発芽させた麦芽(デンプンが酵素アミラーゼ)で糖化している)を、ビール酵母でアルコール発酵させて作る製法が一般的である。

現在は炭酸の清涼感とホップの苦みを特徴とするラガー、特にピルスナーが主流となっているが、ラガーはビールの歴史の中では比較的新参であり、ラガー以外にもエールなどのさまざまな種類のビールが世界で飲まれている。

日本語漢字では麦酒(ばくしゅ)と表記される。

名称

各国語における名称や語源は以下の通り。

  • 語族の異なる言語での名称
    • 日本語:ビール(オランダ語のbierからの借用語)、麦酒(ばくしゅ)(中国語の漢字を使った意訳語)
    • 中国語:啤酒(píjiǔ。おそらく英語のbeerからの借用と中国語「酒」の合成)
    • 台湾語:麥仔酒(be̍h-á-chiú。おそらく英語のbeerからの音の借用と中国語「麦」と接尾辞「仔」の当て字、名詞「酒」との合成)、Bih-luh(日本語ビールからの借用語、オランダ語のbierからの再借用語)
    • フィンランド語:olut(ゲルマン語:aluthなどからの借用語)
    • ビールを受け取った旨を記した粘土板。シュメール、紀元前2050年

      その歴史は古く、紀元前4千年紀メソポタミア文明シュメール人により作られていた資料が最古とされる。当時は大麦エンマー小麦から作られ、黒ビール、褐色ビール、強精ビールなどの種類があり、神々に捧げられるほか人々に再配分された[2]。ちなみにシュメール人はワインの製法も開発している。古代エジプトにおいては、それより下った紀元前3千年紀の資料から、ビールの痕跡が確かめられており、小麦の原産地が西アジアであることからメソポタミアからビールの製法が伝わったとする説がある。またアジアでは、中国において5000年前のビール醸造の痕跡が見つかっている[3]

      これらのメソポタミアやエジプトのビールの製法については2つ仮説がある。一つは麦芽を乾燥させて粉末にしたものを、水で練って焼き、一種のパンにしてからこれを水に浸してふやかし、麦芽の酵素で糖化を進行させてアルコール発酵させたものであった。大麦はそのままでは小麦のように製粉することは難しいが、いったん麦芽にしてから乾燥させると砕けやすくなり、また消化もよくなる。つまり、ビールは元来製粉が難しくて消化のよくない大麦を消化のよい麦芽パンにする技術から派生して誕生したものと考えられている。穀類を豊富に産したメソポタミアやエジプトでは、こうした背景を持つビールはパンから派生した、食物に非常に近い日常飲料であった。シュメールにはビールと醸造を司るニンカシという女神がおり、その讃歌にはビールパン、ナツメヤシ、蜂蜜を使ってビールを醸造する方法が書かれている。また、古代エジプトのパピルス文書には、王墓建設の職人たちへの配給食糧として、ビールが記録されている。焼いてから時間のたった固いパンを液体でふやかすという発想は、ヨーロッパのスープの原型となった、だし汁でふやかしたパンとも共通しており、ふやかしたパンの料理という共通系譜上の食物ともいえる。もう一つの製法は、現在のビールに通じる製法であり、エンマー小麦を原料に、発芽させた麦(麦芽)と煮て柔らかくした麦をあわせて酵母を添加して発酵させ漉したものである。どちらも場合によっては糖分や風味を添加する目的でナツメヤシを加えることもあったという。また、エジプトに伝来したビールは気候条件により腐りやすかったため、ルピナスを添加して保存加工がなされていた。これはバビロニアのビールでも似たような事例で様々な薬草を加えることがあったと言う。その中にはホップも含まれたと考えられている。バビロニアのハンムラビ法典にはビールに関する取り締まり規則や罰則が記されており、一例として「ビールを水で薄めて販売した者は、水の中に投げ込まれる(溺死刑)」というものがある[4]

      一方、麦芽の酵素によって大麦のデンプンを糖化させ、その糖液をアルコール発酵させるというビール製造の核心技術は、北方のケルト人ゲルマン人にも伝わったが、彼らの間では大麦麦芽をいったんパンにしてからビールを醸造するという形をとらず、麦芽の粉末をそのまま湯に浸して糖化、アルコール発酵させる醸造法が行われた。また日常の食物の派生形であった古代オリエントのビールと異なり、これらヨーロッパ北方種族のビールは、穀物の収穫祭に際してハレの行事の特別な飲料として醸造が行われる傾向が強かった。

      ローマにはエジプトから伝えられたものがジトゥム (zythum)、北方のケルト人経由で伝わったものがケルウィーシア (cervisia) と呼ばれたが、ワインが盛んだったために野蛮人の飲み物視され流布しなかった。ローマ人や古代ギリシア人の間では、大麦は砕いて粗挽きにしたものをにして食べるのが普通であった。また現在はアルコール飲料であるワインも、当時は糖分があまりアルコールに転化されておらず、非常に甘い飲み物であった。固いパンを食べやすくするブドウのジュースを濃縮し長期保存できる形にした日常の食卓の飲料、硬水を飲みやすくするために水に加える飲料としての性格が強く、酔うためにそのまま飲むのは野蛮人の作法とされ、水で割って飲むのが文明人の作法とされていた(そもそもストレートで飲むとかなり甘い)。それだけに、祝祭に際して醸造したビールを痛飲して泥酔する北方種族の習俗は、自らを文明人と自認するローマ人、ギリシア人の軽蔑の種にもなっていたのである。古代ローマの時代には市民の主食は小麦となっており、大麦は家畜の飼料用として栽培されており、十分の一刑に処された者や剣闘士以外は口にすることは無く、大麦を口にすること自体が野蛮人とされていた。しかしゲルマン人主導のフランク王国が成立すると、ヨーロッパ全土でビールは盛んに作られるようになり、ビール文化はヨーロッパに根付いた。一方で非常に甘い飲み物であったワインも、今日の製法と近くなり、ほとんど甘くないアルコール度数の高い飲料となった。そのためビールとの関係は逆転し、アルコール度数がより低いビールは、子供にもあった飲み物であると考えられるようになった。キリスト教が広まると修道院は自給と巡礼者にふるまうためのビールを醸造するようになり、技術の発展にも大きな役割を果たした。その中で発酵を安定させるなどの目的でさまざまなハーブ類を調合したグルート (en:Gruit) を添加することが行われるようになった。グルートは領主によって管理されており、醸造業者は領主から購入しなければならなかった。このため中世に用いられたグルートの製法は現在に伝わっていない[5]

      11世紀頃、ドイツのルプレヒトベルク女子修道院のヒルデガルディス院長がグルートにかわってホップを初めて用いた。ホップには独特のさわやかな風味と雑菌抑制効果があり、15世紀頃にはドイツのビール醸造で主流となった。他の国でも次第にホップが主流となり、かつては使用を禁止していたイギリスでも17世紀頃にはホップによる醸造が一般的となった。

      16世紀の醸造所

      1516年、バイエルン公ヴィルヘルム4世は粗悪なビールの流通や食用である小麦がビールの原料に転用される事による飢餓を防ぐため、ビール純粋令を発令し、原料として麦芽以外にはホップと水しか使わないよう命じた。小麦を使った白ビールは許可を得た一部の醸造所しか醸造できないようになり、希少価値が高まった。その後ドイツ帝国の成立によりビール純粋令は1906年に全土に施行され、現在のドイツにおいても効力を持っている。15世紀中頃にはバイエルン地方のミュンヘンで、低温の洞窟で熟成させるラガービールの製造が始まった[6]

      19世紀には酵母の研究も進み、上面発酵と下面発酵の技術が確立した。1842年にはチェコのプルゼニで世界最初のピルスナービール「ピルスナー・ウルケル」が製造され、このタイプの醸造はプルゼニのドイツ語名からピルスナーと呼ばれるようになった[6]。黄金色のピルスナーはガラス製品の普及と冷蔵技術の確立によって爆発的に広まった。

      日本では川本幸民がビール製造を試みたのを皮切りに、多くの醸造所が誕生した。本格的に普及したのは明治時代だが、江戸時代初期には徳川幕府の幕僚達がその存在を認知していた[7]

      現代のビールは、19世紀後半のデンマークカールスバーグ社が開発した技術に多くを負っている。同社はビール酵母の純粋培養技術を開発し、さらに雑菌を徹底的に排除した衛生的な缶詰め・ビン詰め技術を確立した。それによりビールの保存性は飛躍的に高まり、安価で大量に安定供給される工業製品として、世界の津々浦々にまで流通するようになった。また、ビール生産が大企業に独占されることにもなった。それまではワインの方が食事に必須の日常の酒として飲まれていたが、安価となったビールが普及することにより、ワインとビールの位置が逆転した。

      欧米では、この反動として工業化以前のビール生産を見直す動きが起こり、クラフトビール地ビール)を作るマイクロブルワリーが多く設立されている。日本でも法規制が緩和されたことにより、地ビールの生産が少しずつ行われている。

      SRM/Lovibond ビールの色 EBC
      2 ペールラガー 4
      3 ジャーマンピルスナー 6
      4 ピルスナー・ウルケル 8
      6 12
      8 ヴァイスビア 16
      10 バス・ペールエール 20
      13 26
      17 ダークラガー 33
      20 39
      24 47
      29 ポーター 57
      35 スタウト 69
      40 79
      70 インペリアル・スタウト 138

      原料

      原料のビール大麦
      焙煎前の大麦麦芽

      ビールの主な原料は水、デンプン源(麦芽など)、ビール酵母、香味料(ホップなど)である[8]。多くの場合、大麦の麦芽を主原料とし、副原料としてアサ科のホップやトウモロコシ、米、砂糖等が使われる。特にこれらの副原料は大麦麦芽の安価な代替物として使用されることがある[9]。また小麦やライ麦の麦芽でも製造は可能である。アフリカではアワ、ソルガム、キャッサバの根が、ブラジルではジャガイモ、メキシコではリュウゼツランがデンプン源として使われる[10]

      ビールの主成分はである。地方によって水に含まれているミネラル組成は異なる。そのため、各地方で製造するのに水に最も適したビールも異なり、地方ごとの特色が現れる[11]。たとえばアイルランドのダブリンの水は硬水であり、ギネスなどのスタウトビールの醸造に適している。チェコプルゼニで採れる水は軟水で、ピルスナーウルケルなどのペールラガーの醸造に適している[11]。イングランドのブルトンの水はジプサム(石膏; 硫酸カルシウムの鉱物)が含まれているため、硫酸塩の添加(ブルトニゼーションと呼ばれる、ホップの風味を引き立たせる手法)が必要なペールエールビールの製造に適している[12]

      糖質原料

      ビールのデンプン源に何を使用するかで、その濃さや風味が左右される。最も一般的なデンプン源は麦芽であり、後述のように大部分のビールには大麦の麦芽が使われる。麦芽の製法は種子に水と空気を与えて発芽させ、発酵過程に入る前に麦芽の成長を止めるため窯内で乾燥焙煎させる。これを焙燥という。その後、幼根を取り除いたものが麦芽である。種子が麦芽になることによって、デンプンを発酵性の糖に変える酵素が生産される[13][14]。同じ種類の穀物から作られた麦芽でも、焙燥時間と温度の違いによって、異なる色彩をもつようになる。暗色の麦芽からは暗色のビールが製造される[15]。多くのビールにはオオムギの麦芽が使用されている。オオムギは発芽力が強く、皮が薄く、でんぷん質が多く、窒素量の少ないものが原料として優れている[13]

      ホップ

      ホップの毬花。ドイツ、Hallertauのホップヤードにて。

      現在、商業用に生産されているビールのほとんど全てには、風味付けとしてホップが使われている[16]。ホップは和名をセイヨウカラハナソウというつる性植物であるが、その花はビール製造において風味付けと保存性を高める機能を持つ。

      ホップはもともとドイツヴェストファーレン地方のコルヴァイ修道院のようなビール醸造所で、西暦822年から使用されていた[17][18]。だがビールに使用するための大量栽培が開始されたのは13世紀になってからである[17][18]。13世紀から16世紀までの間、ホップは最も主要な香味料として使われるようになっていった。しかしそれ以前には、他の植物(例えばGlechoma hederacea)が香味料として使われることもあった。「歴史」の節で述べたが、グルート (gruit) と呼ばれるニガヨモギなどのさまざまなハーブ、ベリー類も、現在のホップと同じように、ビールの香りづけに使用されていたこともある[19]。現在製造されているビールで、香りづけにホップ以外の植物も使用しているものは、Scottish Heather Ales companyのFraoch'[20]やla Brasserie-LancelotのCervoise Lancelot[21]などである。ホップは、麦芽の甘みと調和のとれた苦味をビールに与え、また花や柑橘系、ハーブのような香りをビールに与える。ホップには抗生物効果があり、ビール醸造に寄与しない微生物を抑え、ビール酵母が有利に働く環境を整える効果がある。他にも泡持ち(ヘッドリテンション)の長さに寄与し[22][23]、保存力を高める効果がある[24][25]

      ビール酵母

      ビール酵母は穀類から引き出した糖を代謝し、エチルアルコール炭酸ガスを生産する。酵母の働きによって麦芽汁がビールになる。また酵母はビールの個性、味わいにも影響を与える[26]。ビール酵母には、発酵中に発生する炭酸ガスとともに液面に浮かび、褐色クリーム状の泡の層を形成する上面発酵酵母と、発酵末期に槽の底に沈殿する下面発酵酵母が存在する。製造に前者を用いるビールを上面発酵ビール(エール)、後者を用いるビールを下面発酵ビール(ラガー)という[13](詳しくは「分類」の節を参照)。最も主要な上面発酵酵母はSaccharomyces cerevisiaeで、最も主要な下面発酵酵母はSaccharomyces uvarumである[27]。バイエルンの白ビールではTorulaspora delbrueckii英語版が働く[28]。酵母の働きが解明される以前は、空中を漂う自然酵母によって発酵を行っていた。いわゆる自然発酵ビールである。大部分のビールは純粋培養の酵母を加えることで発酵を行うが、ランビックのようなごく一部は現在も自然発酵で製造されている[29]。自然発酵ビールのランビックでは主にBrettanomyces属の酵母が働く[30]

      清澄剤

      清澄剤は濁り物質を凝集させて沈殿除去する働きのある物質である。製造直後のビールにタンパク質の濁りが見られるとき、醸造所によっては1種類あるいはそれ以上の清澄剤が添加されることがある。この操作によって澄んだビールを作ることができる[31]。ビールに使用される清澄剤の例としてはアイシングラス(魚の浮袋に含まれるゼラチン質)、アイリッシュモス紅藻の一種)、Kappaphycus cottoniiから採れるκ-カラギーナンポリクラール、ゼラチンなどである[32]。もしラベルなどに「菜食主義者向け (suitable for vegetarians)」といったことが記されていたなら、そのビールには動物性のゼラチンが使われておらず、海藻や人工の添加物で澄ませている[33]

      製法

      16世紀のビール醸造所

      ビール醸造所のことをブリュワリー(ブルワリー)という。法律などで制限されていない限り家庭でもビールの醸造は可能であり、ビールの歴史の中ではそのようなビールもたくさん作られてきた。家庭内で消費するため非営利的にビールなどを醸造することを自家醸造 (homebrewing) という。日本では、免許を持たない者がアルコール度数1%以上の酒類を醸造することは禁じられている。自家醸造用の道具を売り買いすることはできるが、きちんと法律の範囲内で醸造するかどうかは使用者に委ねられている[34]

      醸造過程で果汁などを添加したフルーツビールや、香辛料を添加したスパイスビールなどもヨーロッパではポピュラーであるが、日本の法律上はビールではなく発泡酒扱いとなっていたが、2018年4月1日の酒税法改正で果実及び香味料の使用が許されるようになった[35]

      麦芽粉砕

      砕かれたホップ

      ビールの醸造の最初の工程は、デンプン源と温水を使った麦芽汁づくりである。普通デンプン源には大麦麦芽が使用される。麦芽はダスト・異物を除去した後、糖化・ろ過に適した大きさに粉砕される。胚乳部は糖化しやすいように細かく粉砕する。一方、殻皮部は麦汁濾過工程で濾膜を形成させるためになるべく形を残すようにしなければならない。ただし濾膜形成の必要ない加圧式の濾過方法を用いる場合は麦芽全部が細かく粉砕される[36]。粉砕した麦芽のことをグリスト (grist) という。グリストはマッシュタン (mash tun) と呼ばれる容器の中で温水と混合される。グリストを浸す温水のことをリキュール (liquor) といい、グリストと温水の混合物のことをマッシュ (mash) という[37]

      糖化

      グリストと温水が混合されると、麦芽に含まれるデンプンなどの多糖類や可溶性タンパク質が溶け出す[38]。多糖類は麦芽のもつ酵素により可溶化し、分解され低分子の麦芽糖が生み出される。この多糖類の分解のことを糖化(マッシング; mashing)という。糖化には1〜2時間ほどの時間が掛かる[39]。麦芽の酵素の力のみで糖化する方法をインフージョン法といい、マッシュの一部を取り出して煮沸し、元の容器にもどしてメインのマッシュの温度を引き上げる方法をデコクション法という[40]。マッシュの煮沸によって酵素は失活するが、でんぷん質が溶解し糖化が進みやすくなる[41]

      糖化が終了したマッシュからは穀物粒などの固形物が取り除かれ、発酵性の麦汁が回収される。麦汁濾過の伝統的な方法であるロータリング (lautering) では、濾過槽の底に溜まった穀物の粒そのものがフィルターとして働き、固形物と麦汁を分離する。現在行われている醸造ではより細かいグリストまで分離できるフィルターフレームが使用されることが多い[42]。最初に絞られる麦汁を1番絞り麦汁という[43]。穀物粒はスパージング (sparging) という操作で湯洗浄し、さらに多くの麦汁を回収する。麦汁とスパージングで加えられた湯の混合物から、穀物粒を濾過によって分離する。スパージングによって得られる麦汁を2番絞り麦汁という。

      煮沸

      麦汁は湯沸し器やコッパー(copper; 銅で作られていたことに由来[44])と呼ばれる容器に集められ、1時間程度煮沸される。煮沸によって麦汁中の水分が蒸発し、糖類を初めとする溶質が濃縮されて残る。また同時に糖化段階から麦汁に残留した酵素を失活させる[45]。煮沸にはその他にも殺菌、タンパク質の凝固、色度の上昇、pHの低下、不快な香気成分の分解・飛散、などが起こる。煮沸中にホップを添加する[46]。ホップは数回に分けて添加する場合もある。ホップを煮沸することで、ホップ中のフムロンが異性化し、イソフムロンになることで苦味が強まる[47]。煮沸時間が長いほど苦味が強くなるが、ホップそのものの風味や香気は弱くなる[48]

      冷却

      煮沸の終了した麦汁は、酵母による発酵の準備のため冷却される。このとき溶解度が下がってタンパク質やポリフェノールが凝固する[49]。醸造所によってはホップで処理した麦汁をさらにホップバック (hopback) に通す。ホップバックはホップを満たした容器で、風味付けをしたりフィルターの機能を果たしたりする。しかし多くの醸造所ではホップバックを使わず、単純に発酵槽で麦汁を冷却する[50]。その後酵母の増殖に必要な酸素を供給するため、冷却された麦汁に無菌空気が通される[51]

      発酵

      空気を通された発酵槽中の麦汁には酵母が添加される。酵母が出芽を開始すると発酵が始まる。発酵熱の発生により液温が上昇するので、冷却により発酵温度をコントロールする必要がある[52]。発酵に必要な時間は酵母の種類やビールの濃さによって変わる[53]。発酵前の麦汁はpH 5.2 〜5.8だが、発酵後には4.0 〜4.6に低下する。発酵が終了した液を若ビールと呼ぶ。アルコール発酵に加え、麦汁内の微粒子が沈降するため一度発酵の終了した若ビールは清澄する[53]

      発酵は一次発酵(主発酵)と二次発酵(熟成)の二段階で行われることがある。アルコール類はほとんど一次発酵で生成される。その発酵液は新しい容器に移され、熟成される。熟成はパッケージングまでに時間を置く必要がある場合、さらなる清澄化が必要な場合に行う[54]。若ビールにはジアセチル前駆体、アセトアルデヒド、硫化水素などの未熟成物質が含まれる。熟成過程では残存物質のさらなる発酵が進み、これらの物質が分解され、発酵によって発生する炭酸ガスによって液外に運び出される。混濁の原因となるタンパク質は、温度を+1〜-1 ℃程度に下げることにより析出し、一部の酵母とともに沈降する[55]。熟成の終了したビールは濾過され、またシリカゲルによってタンパク質を吸着させて製品工程に送られる[56]

      熟成後に酵母の活動を抑えるため、60度前後に加熱する低温殺菌が行われる。この熱処理を行わず、特殊な濾過装置で酵母を取り除くビールがいわゆる生ビールである。ただしこの呼称は日本の基準によるものであり、国によって基準は異なる。また酵母を完全に取り除かないビールもある。

      分類

      ビールには様々なスタイルが存在するため、特徴によって細かく明確に分類することは非常に困難であり、様々な分類がなされている。有名な分類方法としてマイケル・ジャクソンによる分類がある。

      醸造法による分類

      醸造法と酵母の種類によって分類する場合は、「上面発酵」の「エール」と「下面発酵」の「ラガー」に大別する方法が一般的である。元々エールという言葉は、上面発酵のビールを指していた言葉ではなく時代によって変遷がある。現在、ビールにはホップが使用されることが多いが、ホップがビールに広く使用されるようになったのは、12〜15世紀の間であり、その当時英語圏では、ホップ入りのものをビール (Beer)、ホップなしのものをエール (Ale) と呼んで区別していたが、その後、ビールは総称となり、上面発酵のものがエールと呼ばれるようになった[57]

      エール

      上面発酵のビールを、エールと呼ぶ。出芽酵母Saccharomyces cerevisiae(サッカロマイセス・セルビシエ)とその亜種)を用い、常温で短い時間で発酵を行う。盛んに炭酸ガスを出すために、最終的に酵母が浮かび上面で層を作るために上面発酵と呼ばれる。

      一般に、上面発酵のほうが醸造は容易である。19世紀以降にラガーが爆発的に普及するまでは、ビールといえばエールであった。

      複雑な香りと深いコクを特徴にしている。主なスタイルとしてペールエールスタウトアルトビールケルシュヴァイツェンなどがある。

      ラガー

      下面(かめん)発酵のビールをラガーと呼ぶ。Saccharomyces carlsbergensis(サッカロマイセス・カールスベルゲンシス)という酵母を用い、低温(10℃以下)で長時間発酵を行う。役目を終えた酵母は沈殿するため、エールの上面発酵に対して下面発酵と呼ばれている。

      比較的すっきりした味で、ピルスナー(ピス)、ボックなどのスタイルがあり、もともと中世ドイツバイエルン地方のローカルなビールだった。この土地の醸造師たちは、低温でも活動する酵母を発見し、変わったビールを醸造していた。秋の終わりにビールの材料を洞窟の中に氷と共に貯蔵し、翌年の春に取り出すと、発酵が終了してビールが完成する。ラガーとは貯蔵されたビールという意味である。

      冷蔵庫が発明された19世紀以降、これが瞬く間に世界のビールの主流となった。一定の品質のビールを大量生産するのに最適だったためである。黄金色の美しい色と、ガラス製のグラスやジョッキが普及したことを人気の理由に挙げる人もいる。

      自然発酵

      酵母発見以前のビールは全て自然発酵であった。現在でもアフリカの伝統的なビールや、ベルギーのパヨッテンラントで製造されるランビックでは培養された酵母を使用しない自然発酵が採用されている。乳酸発酵も行われるため、特有の酸味を持つようになる。

      飲み方

      20世紀以降の冷蔵技術の進歩により、ビールを冷やして飲む風習は加速度的に広まった。常温のビールを飲む慣習であった中国でも、日本のコンビニエンスストア系企業が進出に乗り出した際に冷蔵のビールを提供したところ人気となり、冷たいビールの需要が上がったという現象も起きている。タイでは冷やした上に氷を入れるのも一般的である。一方でエールビールは常温で飲まれることが多い。また、ドイツやベルギーなどでは温めて飲まれることもあり、グリュークリークのように温めて飲むことが主流のビールもある。またビールをカクテルにして飲むビアカクテルでは、トマトジュースを入れたレッド・アイやレモネードを入れたパナシェ(ドイツではラドラー、イギリスではシャンディ)、ジンジャーエールとのカクテルシャンディ・ガフなどが知られる。またピルスナースタウト等、異なる種類のビールを混ぜるハーフ&ハーフもポピュラーな飲み方である。

      ラガービールの注ぎ方

      ビールを注ぐ様子

      ラガービールは豊富な泡を発し、注ぎ方によって味も変化する。泡はビールが空気に触れて酸化されることにより味が変化することを防ぐ役割もある。ビールの苦味成分は液体中に拡散しているが、これは泡によって吸着される。そのため、ビールの炭酸泡の形成過程をコントロールすることにより、ビールの苦味成分を液体上部に浮かぶ泡の層に閉じ込めることができる。

      注ぎ方の一例

      1. 最初はグラスの底にビールを叩きつけるようにして注ぎ、泡を形成する。これによりビールが空気に触れるのを防ぐことができる。
      2. グラスとビールの注ぎ口を近づけるなどして初めに形成した泡を壊さないように静かに注ぐ。これにより、均質な大きさの泡が液体中で均等に形成されるため壊れにくく、苦味成分も吸着させることができる。

      保存

      ビールは酒としては味が変化しやすい部類に入る。品質が劣化する主な原因に、保管温度、日光、衝撃、酸化が挙げられる。また出荷から日数が経過するに従い味が劣化する。このような日数経過や味の変化は鮮度と表現される。ただし、酵母が殺菌・濾過されておらず瓶・樽内で再発酵を行う種類のビールは長期保存や「寝かせる」ことが可能で、マイルドで熟成された味わいへの変化を楽しめる銘柄もある。

      • 保管場所は暗所で低温、温度変化や振動のない環境が望ましい。
      • 開封後はなるべく早く飲みきってしまうことが推奨される。

      劣化の原因は大麦由来の酵素LOX(リポキシゲナーゼ)の働きが大きい。醸造過程でLOXが劣化因子を作りこれがビールの成分と反応し脂質を酸化させることで渋みや臭みになり泡もちの低下が起きる。

      温度
      保管の適温は発酵時と近い温度とされ、これに従うとラガーは10℃以下、エールで15℃ - 25℃くらいが適温となるが、エールも10℃以下で保存しても問題ないとする意見もある。適温の範囲内でも、温度変化を繰り返す条件下では劣化が急激に進む。高温では劣化が早く進むが、低温にしすぎると成分の凝固や濁りが発生し泡もちが悪くなったりする。また容積増加で内圧が高まるため容器の破裂の恐れがある。
      日光
      紫外線によりホップに含まれる苦み成分イソフムロンが分解、同様にタンパク質に含まれる硫黄分が分解されて発生する硫化水素と合体し、悪臭を発する物質になる。臭いは「ゴムの焦げたような臭い」「スカンクの悪臭」とも喩えられ、日光臭と呼ばれている。ビール瓶が茶色や緑に着色されているのは紫外線を防ぐためだが完全には防げない。また蛍光灯からは微量ながら紫外線が放射されているので、屋内でも陳列や保管条件によって劣化が起きる場合がある。
      衝撃
      ビール容器の中は炭酸が過飽和の状態にあり(炭酸飽和)、衝撃が加えられるとバランスが崩れ分離や気泡を生じ味の劣化に繋がる。また開封時に激しく噴出する原因になる。
      酸化
      ビールは空気に触れると急激に酸化し風味が損なわれる。炭酸が抜けるせいもあるが、同じ発泡性酒類の
      世界のビール

      キリン食生活文化研究所が調査し、ビール酒造組合が公表する集計によると、2007年の世界のビール総生産量は1億7937万klに上る[58]。生産量のベスト10は、中国アメリカロシアドイツブラジルメキシコ日本(発泡酒等を含む)、イギリスポーランドスペインの順。オランダは12位、チェコは19位、ベルギーは20位であった。

      主な生産国の状況と銘柄は以下の通り。

      ヨーロッパ

      ドイツ

      ドイツの歴史に残るミュンヘンビアホール・ホフブロイハウス。
      ビールとワインで祝う収穫祭シュトゥットガルトのカンシュタッター・フォルクスフェストの巨大仮設ビアホールの内部。
      生バンド演奏のもと椅子の上に立ち上がり盛り上がる。

      ラガービールが大多数だが、アルトケルシュヴァイス (WeissBier) などのエールビールも多種造られている。(ピルスナービールはチェコの発明。ラガービールはオーストリアの発明である。ただし、いずれもドイツ系による発明。)

      ビールの新酒は秋初めに出回り、これに合わせて各地でビール祭りがある。最も有名かつ大規模なものはドイツミュンヘンオクトーバーフェストである。また、オクトーバーフェスト用に供されるメルツェンビール(3月に醸造される)、秋口に醸造され冬場に供されるウィンタービール等の季節ビールも多くのメーカーで作られている。なお、ドイツではビール法(ビール純粋令)によりビールを名乗る飲料には原材料の規制(水・麦芽・ホップのみを原料とする飲料物のみをビールとして取り扱う)があったが、非関税障壁として非難され、現在は輸入ビールについては廃止されている。ドイツのビールメーカーは各地にあり、全国ブランドのビールメーカーは少ない。価格も安く、地ビールの缶ビールの価格は、コーラより安い。

      ドイツのビールは大きく分けて大麦を原料とするピルスナータイプと小麦を原料とするヴァイスタイプ・ビールがある。小麦を原料とするビールでもミュンヘン近辺では白っぽいヴァイスビールが有名。ドイツ南西部のバーデン=ヴュルテンベルク州近郊ではヴァイスビールでも透明なクリスタル・ヴァイス、半透明なヘーフェ・ヴァイス、濁ったドゥンケル・ヴァイスがある。