桜の花
いろいろな花

(はな、とも書く。花卉-かき=漢字制限のため、「花き」と書かれることが多い)とは植物が成長してつけるもので、多くは綺麗な花びらに飾られる。花が枯れると果実ができて、種子ができる。多くのものが観賞用に用いられる。生物学的には種子植物生殖器官である。また、植物の代表的器官として、「植物(種)」そのものの代名詞的に使われることも多い[1]。なお、植物の花を生花(せいか)、紙や布・金属などで作られた花を造花(ぞうか)という。

生物学的「花」

花の定義

花は雌蕊や雄蕊を含む(ないものもある)、一個の有限の茎頂胞子葉(花葉)と不稔の付属物などから構成された、種子植物の生殖器官である。

しかし、その厳密な定義については複数の考え方が存在する。

  1. 被子植物の生殖器官を花とする考え方
  2. 胚珠のある生殖器官を花とする考え方(被子植物裸子植物
  3. 生殖器官が密集したものを花とする考え方

花は、胞子葉が枝先に固まった構造から生じたと見られるが、この意味を広く考えれば、普通の被子植物の花以外に、裸子植物における松ぼっくりなどの元になる構造や、さらにはスギナの胞子葉であるツクシのようなものまでが花と言えてしまう。2は、松ぼっくりまでは花だというもので、3は、ツクシも花だという立場と言える。

1はアメリカの研究者に多く、2はヨーロッパの研究者に多い。19世紀は3の考え方が主流だったが、現在では一番合理的とされる2が主流になりつつある。

構造

花全体の構造は、1本の枝に、先端の方から大胞子葉、小胞子葉、不実の葉が並んだ構造が、ごく短くつまったものと見なせる。

典型的な花は、枝から伸びた柄の先につき、中心に雌蕊をもち、その周囲を雄蕊が囲む。その周囲には、花びらなどが配置する。雄蕊では花粉が作られ、雌蕊には胚珠が入っている。この両者の働きで種子が作られる。

裸子植物においては、雌雄異花が普通で、軸を中心に胞子葉由来の鱗片状の構造が並んだ形を取るのが普通である。

被子植物では、花びらやといった装飾的な構造が多数加わることが多い。したがって、その構造は中心に大胞子葉由来の雌蕊、その外側に小胞子葉由来の雄蕊、そしてその外側に由来の花弁、そして一番外側にやはり葉由来の萼が取り巻くという形になる。花弁、萼はまとめて花被と呼ばれる。ただし、すべての花がこのような構造を持っているわけではなく、花びらや萼などがない花も多い。特に、風媒花などでは、花びらの欠損や退化が見られるものが多い。イネ科の場合このような花を小穂という。

また、1つの花に雄蕊と雌蕊を備える花が多いが、どちらかだけを持つ、雌雄異花のものもある[2]。雄蕊と雌蕊が両方備わっていても、片方が機能していない例や、どちらかが先に熟し、同時には熟さないようになっている例も多い。

花の配列状態を花序という。花序は花によって異なるが、ある一定の方式に沿って並ぶ。

は、花や花序の基部につく葉のことをいう。包葉ともいう。通常は、小型であるが花弁状になるものもある。

花の進化

ドクダミの花
穂には花が並び、個々の花は雄蘂と雌蘂1本ずつから成る
モクレンの花
中央の穂状のものは外側は雄蘂、内側は雌蘂、いずれも多数あってらせん状に並ぶ

種子植物がシダ植物から進化するに伴い、雄蕊は小胞子のうをつける胞子葉が、雌蕊は大胞子のうをつける胞子葉が各々変化してできたと考えられる。また、花びら、萼も葉が起源のものと考えられる。

被子植物の花が、どのようにして進化したかについては、大きく2説がある。

  1. 1雄蕊1雌蕊1花被1の花を原始的なものと見なし、次第に複雑な構造のものが出現したとする説で、新エングラー体系の根拠となっている。
  2. 軸を中心に多数の雄蕊、雌蕊、花被が螺旋状に並んだ花を原始的なものと見なし、次第にその形が整理されてきたと見なすもので、クロンキスト体系はこれを基礎とする。

クロンキスト体系では、双子葉植物綱ではキク目を最も進化したものとし、単子葉植物綱ではラン目を最も進化したものとする。

生殖様式

花粉により受粉をさせ、生殖を行う。受粉の様式は、花の構造により自家受粉と他家受粉に分けられる。通常、他家受粉が起きることが望ましいので、種類によっては自家受粉を妨げるような仕組みが見られる。例えば、雄蕊と雌蕊のどちらか先に成熟するようになっているのもそのひとつである。どちらが先かで雄性先熟または雌性先熟とよばれる[3]

また、花粉はそのままでは移動できないため、受粉を行うためには何らかの媒介が必要となる。おもに媒介者となるのは動物であり、風が媒介するものは風媒花と呼ばれる。動物が媒介するものはその媒介者によって虫媒花媒花・コウモリ媒花などに分かれる。動物媒の中では特に虫による媒介が多い[4]。最も古い媒介方式は風媒であるが、のちにより確実性の高まる動物媒が発展した。しかしながら冷帯地域においては単一樹種による樹林が多いことや媒介者となる動物の不足から、再び風媒に戻るものが多く、かなりの樹木が風媒花となっている[5]。逆に媒介動物の多い熱帯地域においては動物媒が圧倒的で、熱帯樹木の95%を占める[6]

花が美しいわけ

花は人目を引く魅力がある。一般的な概念の花は、それ以外の部分が緑などの地味な中にあって、それとは対照的に鮮やかな色合いの花弁などを並べてよく目立つようになっている。これは、そもそも花の存在が、他者の目を引くことを目的としているからである。ただし、本来はヒトの目ではなく、昆虫などの目を引くためのものである。顕著な例としてミツバチの可視領域は紫外線を含み、ミツバチの目で花を見ると蜜のある中央部が白く反射する花がある事などが知られる。これは、植物が固着性の生活様式を持つため、繁殖時の生殖細胞、具体的には花粉の輸送に他者の力を借りなければならない。被子植物の多くがその対象を昆虫や鳥などの小動物とし、彼らを誘うために発達した構造が美しい花びらで飾られた花である[7]

他方、無生物によって花粉を運搬する植物の花は目立つ必要がないため、花の色は地味なもので香りも弱い[8]。現生の裸子植物は一部の例外を除くほとんど全てが風媒なので、花弁などを持たない。被子植物でもイグサ科イネ科などは虫媒花から進化して二次的に風媒となったもので、イグサ科では花弁はあるが極めて地味になっており、イネ科では花弁は完全に退化し、開花時にも全く目立たない。

花の色

花を発色させる色素は、開花時に細胞内部で酵素を用いた化学反応が起こり生成される。元来花の色は送粉者を惹きつけるために着けるもので、蕾の時には必要が無い。主な色素はフラボノイドカロテノイドベタレインクロロフィルのグループであり、総数は数千にもなる。さらに水素イオン指数(pH)や存在するイオンの影響で色が変化する事もあり、多様な色で知られるアジサイの場合はアルミニウムイオン濃度で左右される[9]

色素が無い花びらは白く見える。花びらの材質は本来透明だが、中に気泡があるために白く見える。花びらが色素を持たないメカニズムには、作られた色素が別の酵素で破壊される場合と、色素を作る酵素の機能が阻害された場合がある。前者の例は白いキクで、花にはカロテノイドを分解する酵素が存在し、作られた色素が壊される。後者にはアサガオがあり、フラボノイドの一種アントシアニンを作る酵素のDNA内にトランスポゾンがあり色素生成を阻害する。このトランスポゾンが開花中にDNA上の別な場所に移動すると酵素は色素を作れるようになる。これによって一つの花の中に色素がある細胞と無い細胞が混在し、アサガオの模様が作られる。トランスポゾンの動き方は一定ではなく、それぞれの頻度やタイミングによって花の模様が異なってくる。トランスポゾンを含むアサガオは江戸時代に偶然発見され、品種改良を経て広まった[9]

人工的に花の色を変える試みには、品種改良や遺伝子組み換え技術またはDNAを変質させる突然変異の利用などがある。品種改良では、色素を作る酵素が無かったり色素を破壊する酵素が存在するため、例えば青いバラや黄色いアサガオなどは作れない。他の花から色素をつくる酵素のDNAを組み入れる試みでは、青いバラが生産された例もあるが、pHなど他の条件が異なるため元の花と同じ発色は難しい[9]

用語

花の構成要素に関して

柱頭
花柱
子房
外珠皮
内珠皮
胚嚢
花糸
花冠
花床
花柄
雄蕊
雌蕊
花被
距(きょ)
花冠の基部が後ろに飛び出たもの。スミレツタバウンランなど。
副花冠
花冠と雄蕊の間にある花冠に似たもの。副冠ともいう。
両性花
一つの花に雌蕊、雄蕊が両方あるもの。
単性花
一つの花に雌蕊、雄蕊の一方しかないもの。雌蕊だけの花を雌花、雄蕊だけの花を雄花という。
中性花
おしべとめしべが退化した不稔性の花。
完全花
萼、花弁、雌蕊、雄蕊が全部揃っている花。両性花の意味で使うこともある。
不完全花
萼、花弁、雌蕊、雄蕊 のひとつ以上が欠けている花。単性花の意味で使うこともある。
無花被花
花被の無い花。裸花ともいう。ヤナギドクダミなど。
単花被花
萼はあるが花冠の無い花。萼が花冠に見えるものが多い。シュウメイギクなど。なお、「萼は無いが花冠はある」ということは考えない。萼と雌蕊または雄蕊の間にあるものを花冠と考えるのが正しい。このため「萼は無いが花冠はある」と見える花があれば、「花冠のように見えるのが萼で、花冠は存在しない。」ということになる。(花の基部の緑のところが萼で、その内側のカラフルな部分を花冠と考えてはならない。)
両花被花
萼と花冠のある花。多くの花がこれにあたる。
合弁花
花弁同士が全部または一部くっついている花。アサガオツツジなど。
離弁花
花弁同士がくっついていない花。バラナタネなど。
同花被花
萼と花冠の区別がつきにくい花。チューリップなど。普通のチューリップの花の基部を観察すると、萼片に相当する外花被片3枚、花弁に相当する内花被片3枚とわかる。しかし、多くの人は花弁6枚と考える。
閉鎖花
花冠が開かずに終わる花。例えばホトケノザの花はその一部が閉鎖花。
開放花
花冠が開く花。ほとんどの花がそうである。
異形花
同一の種で複数の花の形があることをいう。例えば、雄花、雌花のある植物などが典型例である。花の形の個数により二形花三形花などということがある。
装飾花
花弁が大きく発達した花のことで、小さい両性花を囲むように存在し、昆虫の誘引のためと言われている。アジサイなど。
八重咲き
一種の奇形である。雄蘂や雌しべが花弁化し、花弁がよけいに重なっている花形。
唇形花
花弁が上下に分かれて発達した花。下側の受ける花弁唇弁という。
蝶花
マメ科の花。

利用

花は魅力的な姿をしているため、それを鑑賞することは世界中で古くからおこなわれてきた。世界各地、古今東西の遺跡や壁画、紋章などにおいても、花の絵柄は普遍的に見かけられるもののひとつである。

また、花を摘み集めて装飾とする風習も広く見られる。茎から切り取った花を切り花というが、これを花を方向をそろえて束ねたものを花束(ブーケ)、組み合わせて輪にした花輪などもさまざまなものが見られ、子供の遊びから冠婚葬祭の飾りに至るまで、各地の風俗や風習の中でそれぞれ独特の役割を担っている場合もある。発掘された時、ツタンカーメンミイラに花束が供えられていたのは有名な話である。日本の華道、いわゆる生け花もこの方向で高度に発達したものである。なお、切り花を使う理由に、見かけの美しさ以外に、その香りを重視する場合もある。

花の種類によってそれぞれに意味を持たせることもよくおこなわれ、日本では葬式にキクの花というような定番がある。また、花言葉というのもこのようなもののひとつである。

花を育てて楽しむことも古くからおこなわれた。庭園を飾るために花を育てる例は広く見られる。花を中心とする庭を花園、花畑などという。観賞用の植物の栽培を園芸と言うが、特に草の花を目的とする栽培を花卉園芸という。長い歴史の中で、多くの観賞用の花が選別栽培され、後には人工交配などによる品種改良も行われた。現在では、切り花を生産することが産業として成立している。とくに切り花は商品価値が高く比較的重量も軽いため、1980年代以降大消費地から離れた土地で生産し消費地まで空輸することが盛んになってきている。ヨーロッパ向けの輸出を主とするケニア[10]エチオピア、アメリカ向けの輸出を柱とするコロンビアエクアドルなどはこの切り花産業が急成長しており、重要な産業のひとつに成長しつつある。ただし、この切り花の輸出量が最も多いのはオランダであり、世界の輸出量の半分以上を占めている。オランダは世界最大の花卉園芸産業を擁する国であり、バラを中心とする多様な花を生産しヨーロッパの花卉生産の中心となっているほか、世界最大の花卉園芸市場であるアールスメール花市場などでの花の取引も非常に盛んであり、オランダでの花の取引は全世界の取引額の6割を占め、世界の花卉市場の中心となっている。なお、花卉園芸で実際に扱う対象は花に限らず、いわゆる枝もの、実ものも含む。

なお、品種改良がおこなわれる場合、それを支える市場の要求が高い場合がある。ヨーロッパにおいても、日本においても、花の栽培の歴史の中では何度か特定の花のブームがあり、新品種が考えられないような高値で取引されたことがある。ヨーロッパではチューリップが17世紀にオランダで大ブームを起こし、ひどいときは球根一個が豪邸より高かったと伝えられる。この事例についてはチューリップ・バブルを参照。

  • 花にちなむ用語:

    花を食用とすることは、洋の東西を問わず古くからおこなわれてきた。花を食用とする場合はほとんどは野菜に分類され、花菜と通称される[11]。日本では食用花としては、キクナノハナシュンランフキノトウなどが用いられてきた。一方、欧米のエディブル・フラワーとしてナスタチウムコーンフラワーバラパンジーキンセンカスイートピーキンギョソウなどが挙げられる。伝統的な日本料理においては、盛りつけの技法としてアジサイの花などをあしらうことがある。上記の食用花は食味と同様に見た目の美しさや飾りとしての役割も重視されるが、一方でブロッコリーカリフラワーミョウガアーティチョークのように飾りにはあまり使用されず、食味を重視して食用とされる花も存在する。

    直接的な食用のほか、虫媒花が虫をおびき寄せるために分泌する花のミツバチによって採集され、巣の中で蜂蜜へと変化する。蜂蜜は人類最古の甘味料とも呼ばれ、現代においても甘味料として重要な地位を占めている。ミツバチは同一の蜜源植物から蜜を採取する傾向が強いため、そのミツバチの群れが採取する花の種類によってさまざまな味や香りの蜂蜜ができる。さまざまな蜜源植物からまんべんなく蜜を集めることもまれにあり、この場合は百花蜜と呼ばれる。代表的な蜜源植物としては、日本ではレンゲソウアカシアなどが挙げられる。

文化

言語的文化としては、漢字文化圏では「」と書き日本語には「華やか」「社交界の花」「華がある」などは肯定的表現として用いられている。「きれいな薔薇にはとげがある(Every rose has its thorn.There's no rose without a thorn.)」=美人に裏がある、といった外国の慣用句も単純な肯定ではないが、ヒトの感性において美しいと認識する人間を花に例えている。強い色彩を持つ観賞用の火薬の爆発に「花火」という字を当てるのは漢字文化圏に共通である(ただし、中国語では「烟火」が主)。自然現象によるものとしては、「雪の花」は形状が花に似ていることに由来する名である。温泉の成分が集まることで発生する「湯の花」や、美しい結晶薔薇の花に譬えた "desert rose (砂漠の薔薇)" など、「花」を美的な存在の代名詞として扱う向きは日本でも外国でも見られる。

花は生物としてのそれ自体を鑑賞する日本の花見や華道、チューリップバブルに見られる花卉園芸といった文化のほかにも絵画等のモチーフとしても評価される。ゴッホひまわりなどは評価額や知名度において世界的なものであり、少なくともそうした著名な芸術家の創作対象たりうるものと見做されている、とは言える。

日本人特有の価値観では少し違った意味合いを付けられることもあり、もののあはれなどといった無常観や四季の変化のもとでその儚さが愛でられてきた。それは戦死を意味する「散華」などにも近似するが、生命力と矛盾するわけでもない。短い命であるからこそ、束の間の栄華・華やかさが美しく感じられるということである。これは平家(伊勢平氏)の栄華とその後の没落を描いた古典文学平家物語』などにも見てとることができる。「少しずつ咲いていって全体では長い間を咲き続ける、の花」から「いっせいに咲いてすぐに散ってゆく、の花」へと「日本人が最も好む花」および「花の代名詞」が移ろったことは、民族特有の美意識の確立を物語る事象の一つにも位置付けられる。

また、花は古来よりアニミズムの対象となっている。万葉集では頭に花を飾り、花の持つ霊力を我が身のものとする挿頭花(かざし)の風習が歌われている。また、平安時代には現在今宮神社で行われるやすらい祭のように、花の霊が及ぼす災いを鎮める鎮花祭が盛んに行われた[12]

日本では、奈良時代から平安時代初期までは中国文化の影響を強く受けて梅の花が、平安時代初期以降は桜の花が最も盛んに愛でられる花であり、日本で花見と言えば一般的にはこれらの花を観賞することを意味する。

「様々な花の色」あるいは「色とりどりに咲く花の様子」を日本語では千紫万紅(千紫萬紅、せんしばんこう)と言う。例えば、梅雨の時期を色どりどりに咲き乱れる紫陽花の花模様は、千紫万紅という言葉がよく似合う(──という認識を多くの日本人が共有している)。その一方で、乾燥しきって草木も生えない荒野が季節の訪れで突如として芽吹き咲き乱れる草花で埋め尽くされることで有名なナマクワランド英語版(在・南アフリカ共和国。"Flowering Desert" とも呼ばれる)の感動的風景などにこの語を当てても、東洋的でないことを理由とした「似つかわしくない」との批判は当を得ない。

世界の多くの国において、その国の国民に最も愛好される花を国花として当該国の象徴とすることが行われている。正式な国花を制定していない国も多いが、日本のサクラキクのように非公式に国花とみなされている花の存在する国もある。

関連項目