農業(のうぎょう)とは、土地の力を利用して有用な植物栽培し、また、有用な動物飼養する、有機的な生産業のこと[1]

概説

農業とは、土地を利用して有用な植物動物を育成し、生産物を得る活動のことである[2]。広義には、農産加工や林業までも含む[1][注 1]

農業による生産物

主な農作物は大まかに、食品繊維燃料、各種原材料に分けられる。食品としては、穀物野菜果実食肉などがある。繊維としては、木綿ウールアマがある。燃料としては菜種油などが灯火用に使われてきた長い歴史があるが、近代以降は化石燃料に取って代わられることになり、現在では後述するバイオ燃料の原料としての用途が現れている。原材料としては、ゴム動物獣皮、革がある。農作物を原料とする他の素材としては、天然樹脂もある。

このほか、東洋では薬用植物の栽培もさかんにおこなわれてきた歴史があり、生薬の材料として用いられてきた。また、切り花花壇用の花のなどさまざまな装飾的植物の育成もある。

21世紀になって、植物の農作物が バイオ医薬品、(欧米でも)薬剤(生薬)、バイオプラスチックバイオ燃料[注 2][3]、などの原料に使われることが多くなっている[4]。ただしバイオ燃料として生産することは問題で、そもそも世界では今も食糧が不足していて飢餓で命を落としている人々・地域も多数ある、という状況だというのに、植物をわざわざ燃料に変換してしまって燃やしてしまうと、さらに食糧の総量が不足したり、基礎的な農作物の値をつり上げてしまう結果となり、(先進国の人々は自分たちの論理・都合で頭が一杯になっていて気付いていないが)世界人口で多くの割合を占める、収入が少なくて食べ物が十分に手に入ってはいない人々の生命を奪ってしまう結果をまねく、ということが問題として指摘されるようになっている[5][6]

人類の文明との関係

人類の文明発達の鍵であり、動物家畜化すること(畜産)と植物(農産物)の栽培(農耕)により、消費する以上に生産することで人口の増大をもたらした。だが、社会の階層化不平等)をもたらしてしまった。

従事者

農業を職業としている人は農家や農民と呼ばれる。 2007年現在、全労働人口の3分の1が農業を中心とする第一次産業に従事している。世界全体では第三次産業に従事する人口が一次産業を凌駕している[7]。従事する労働者は多いものの、農業の生産高は世界総生産(国内総生産の総和)の5%に満たない。[要出典]

農作物栽培の場合、基本的に自然を対象にするため、日照気温降水量などの気象状態に左右されやすく、また需給関係や投資の影響による市場での価格変動もあり、収入面の安定に欠ける面がある。

また、畜産では、市場での価格変動以外にも、飼育する家畜に対する飼料の給餌や運動など、早朝から深夜までの世話が毎日必要となり、休日が取り難く、従事者の肉体的負担(過労)・精神的な負担(ストレス)が大きいという問題のほか、家畜の糞尿による悪臭環境汚染などの問題を有する[8]

一部のアリやシロアリにも農耕を行うものがある[9][10]

農業技術の功罪

農業には単に耕作だけでなく、広い土地を耕作に適した農地にすること(開墾)や水路を作るなどの灌漑といった様々な専門的技法が含まれる。農業の基本は、依然として農地での農作物の栽培牧草地での牧畜である。20世紀末以降、既存の農業に対する懸念から、持続可能な農業への関心が高まっている。品種改良農薬化学肥料などの技術革新によって収穫量は急激に増加したものの、環境への悪影響(環境汚染)や 人体への悪影響 が起きている[11]。畜産においても品種改良や「集約型の」養豚・養鶏によって食肉の生産高が劇的に増加したが、動物虐待の問題、抗生物質成長ホルモンなどの化学物質を投与することによる人体への悪影響が懸念されている[12]

学問

農業を研究する学問分野を農学と呼ぶ。

農業は、伝統的な分類では林業漁業と同じ第一次産業に分類される。農業・林業・水産業畜産業などに関わる研究は、農学という学問の一分野を成している。

政治・政策と農業

日本では、政府の主導で価格流通管理がされているコメの栽培が多いが、コメの消費量低下と供給過剰による減反政策もあり、野菜など他の作物への転作や、離農が多くなっている。近年、日本においては農業には多面的機能があるとされ、国土保全、景観維持などのほか、アグリツーリズム(グリーンツーリズム)や地産地消の運動も行われている。総称して農業の多面的機能と呼ばれる。

トマス・ロバート・マルサスは、地球は人口増加を支えきれないと予言したが、緑の革命などのテクノロジーが食糧需要増に応えることを可能にした[13]

多くの政府が適正な食品供給を保証するために農業に補助金や助成金を与えてきた。そういった農業補助金は、コムギトウモロコシダイズといった特定の食品に対して与えられることが多い。先進国がそのような補助金制度を実施する場合、保護貿易と呼ばれ、非効率で環境に対しても悪影響があると評されることが多い[14]

近年、集約農業の環境への悪影響(外部性)、特に水質汚染に対する反発から、有機農業を推進する動きが生まれた。例えば欧州連合は1991年に有機農産物の認証を始め、2005年には共通農業政策 (CAP) 改訂[15]で生産量と補助金を段階的に切り離すいわゆる「デカップリング方式」の導入を決めた。

2007年後半、いくつかの要因が重なって穀物の価格が急騰し(コムギは58%上昇、ダイズは32%上昇、トウモロコシは11%上昇)、穀物を飼料としている畜産物の価格も押し上げた[16][17]。世界中のいくつかの国で暴動まで発生した[18][19][20]。高騰の要因は、オーストラリアなどでの干ばつ、中国やインドなどの成長が著しい中流階級の食肉需要増、穀物をバイオ燃料生産に転換し始めたこと、いくつかの国が貿易を制限したことなどである。

近年、Ug99株のコムギに小麦さび病 (en) という伝染病がアフリカやアジアで広まっており、懸念が強まっている[21][22][23]。また、全世界の農地の約40%で土壌の荒廃が深刻な問題となっている[24]国際連合大学のガーナに本拠地のあるアフリカ天然資源研究所は、アフリカでこのまま土壌の荒廃が進めば、2025年にはアフリカの人口の25%にしか食糧が行き渡らなくなる可能性があるとしている[25]

歴史

人類はもともとはもっぱら狩猟採集を行って生きていたと考えられており(狩猟採集社会)、どこかの段階で農業を"始めた"と考えられている。農業の起源については諸説あるが、ハーバード大学テルアビブ大学ハイファ大学の共同チームは、イスラエルガリラヤ湖岸で、23,000年前の農耕の痕跡(オオムギライムギエンバク、エンメル麦)を発見したと、ニューヨーク・タイムズなどで報道されている。[26][27] また、約10000年ほど前、中国の長江流域で稲作を中心とした農耕が始められていたことが発掘調査で確認されている。またレバントシリア周辺、肥沃な三日月地帯の西半分)では、テル・アブ・フレイラ遺跡(11050BP, 紀元前9050年頃)で最古級の農耕の跡(ライムギ)が発見されている。イモ類ではパプアニューギニアにて9000年前の農業用灌漑施設の跡「クックの初期農耕遺跡」がオーストラリアの学術調査により発見されている。農耕の開始と同時期に牧畜も開始された。

農業の種類

農業をどのように種類分けするかは論者によって異なっており、それにより、実際にある地域の農業をどれに分類するかも変化する。また、ある地域の一つの農業が複数の要素を持つものとして捉えられることもある。以下では代表的な農業の種類を挙げる。

アジア的稲作。フィリピン・コルディリェーラの棚田群 ユネスコ世界遺産に登録されている世界最大規模の棚田である。